遠いこの街で-2
「ヒロっ!…げっ、お前腐ってんなぁ〜…。」
「お〜、タケ。軽い栄養失調状態。もうすぐ実習始まるから忙しくてな。」
タケは哀れなものを見る目で肩をぽんぽんと叩いた。しかもため息付きで。
「その様子だと授業受ける気ないだろ。車あるし、どっか行かね?」
ちょうど息抜きしたかったオレは当然ついていった。タケの愛車の軽を軽快に走らす。街中に入ると信号に捕まり、フロントガラス越しに改めて空を見上げると天気がいい事に気付く。
「は?合コン?」
タケのいつもの切り出しに毎度ながら、聞き返す。
「そ。今度の金曜、お前バイトないだろ?金はオレが出すから来いよ。」
「珍しい。どういう風の吹き回しだ?」
「いやぁ、もう…レポートやら何やらで日頃からお世話になっております。」
分かってんじゃねーか。こいつはいつも肝心なときに頼ってくる。まぁ、タケのおかげで楽しめている事もあるし、ずっと甘えてくる訳じゃないからいいけど。しかも合コン代も馬鹿にならないが、それを出してくれるなら断る理由もない。
「どことやるんだよ?」
「松陽女子大、金持ちお嬢様。レベル高いぜぇ?」
「松陽〜?確かお前の元カノ…。」
あのケバイギャルも確か松陽女子大だったはずだ。色を抜きすぎてカラカラのパサパサ髪の毛、アダモちゃんメイクにギラギラ携帯、とても日本語とは思えない日本語を発する女だった。
世間の男性がどう思うかは知らないが、申し訳ないながらオレの許容範囲ではない。
「あれは短大、今度は四年制。」
オレが何を考えていたのか分かったタケは、苦笑いをしながら即座に訂正した。
「ふ〜ん…。」
その言い訳に何の意味があるのか分からず適当にかわそうとした時、窓の向こうの景色に目が止まった。大通りの街並、そこには同じ大学の友人がナンパをしている姿がある。
「あれ…岸谷たちだ。」
「マジで!?おーっ岸、ナンパしてんじゃん。あ、何ふられそうじゃね?いけるか?おっ?あ〜やっぱりふられたぁ〜。」
赤信号をいいことに、タケは友人の戦いぶりを楽しげに覗いていた。明らかに失敗を期待していた顔だった。青にかわると、きっと路駐して岸谷に電話をかけるだろう。
「あの子ら…この前お前らがナンパした子だ。」
「そうだっけ?どうりで可愛いはずだよな。電話でんわ☆」
「覚えてねぇのかよ。」
思ったとおり、タケは車を停め電話をかけだした。めちゃめちゃ嬉しそうに岸谷を茶化す。岸谷たちもこっちに気付き走ってきた。
彼女を見たのは、それが二度めだった。