遠いこの街で-10
好奇心旺盛なタケは何でも手を出すが、料理はきっと料理人の父親ゆずりだろうな。たまにオレの部屋に来ては飯を作ってくれる。
「オレら付き合ってるみたいだな。」
「あらぁ、今頃気付いたの?オレはいつでもヒロにぞっこんよ☆」
「お前って、本当に調子いい…」
その瞬間、何かに引っ掛かったようにオレの動きが止められた。後ろを振り返ろうとする前に正体を示す声がする。
「あのっ…こんにちはっ!」
あの子だった。顔を赤くして、必死の様子でオレの服をつまんでいる。ああ、これで引っ張られたわけね?
「びっくりした…あんたか。」
「すっげ〜…かわいい〜…。」
後ろの方でタケが呟いたのが聞こえた。おいこら、お前ナンパしたことあるだろう!?思わず呆れ顔になってしまう自分がいる。
「あの、お名前を知らなくて。それで思わず掴んでしまいました、すみません。」
遅れて彼女の脇にもう一人女の子が軽く会釈をしながら現れた。いつもナンパされる時に一緒にいる子だ。この子も可愛らしい、この二人は間違いなくナンパされるだろうな。
「あの…名前を教えていただいても…」
恥ずかしそうにする彼女の様子にニヤニヤしているタケがいるのが分かる。おい、チャンスじゃねぇの!?とばかりに肘で突いてきた。
「…宮田大(ヒロ)。」
「宮田さん…私、坪井です。坪井千夏。」
「坪井さん…よろしく。」
「いやヒロ、千夏ちゃんでよくねぇか?」
あまりにさっぱりとした会話にタケが思わず突っ込んできた。そんなこと言われても困る。
明らかなオレの我流に、坪井でいいですと彼女は笑った。
「今からオレらドライブにいくんだけど千夏ちゃんたちもどう?」
「タケ!」
相変わらずの軽いのりに思わずオレは止めた。
「いえ、私たちは遠慮します。」
「涼子ちゃん。」
涼子と呼ばれた女の子は、オレがタケを止めると同時に断りを申し出た。
確かナンパの時もそうだった気がする。声をかけられ、まるで坪井千夏を守るように一歩前へでて断った。使命感のようなものが伝わってくる。
「残念だなぁ。」
「ほらタケいくぞ。…じゃあ、オレたち行くから。」
「はい、それじゃ…。」
少し悲しそうな顔だった。オレたちは彼女に背を向けて間もなく真顔で話しはじめた。オレもタケも感じ取っていたその雰囲気を。