トラブルの果てに-12
何度も確認したくせに、あたしは延々と申請書と戸籍謄本や運転免許証とを見比べ、時間を稼いでいた。
もちろん頭の中ではバカ松村とバカ寺内の帰りを待ちながら。
しかしこんな時間稼ぎなんて、お客さんにしてみれば“なにチンタラやってんだよ”としか思えないのだろう。
一向に受け付けられない事態に、とうとう旦那さんの方がしびれをきらして、
「あの、私達の書き方に何か問題あったんですか?」
と、あたしにイライラした口調と、鋭い視線を投げかけた。
「あ、あの……、申請書自体は何も問題ありません……。
あとは、住基ネットで住所を確認できれば受け付けできます……」
「だったら、早く確認して下さいよ」
とうとう温厚そうな顔つきの奥さんの方までトゲのある言い方であたしを睨んできた。
二人の冷たい視線に耐えられず、下を向いてしまう。
……元はと言えば、松村主査か寺内主事がいないのが悪いのに、なんであたしが責められないといけないの。
社会に出れば、理不尽な想いなんて何度も経験するはず、それは十二分にわかってる。
でも、“自分が悪いわけじゃない”という思いが、どうしてもこの理不尽な状況を仕方ないものとして受け入れられることができなかった。