2つのモンスター-1
「よくぞここまで…。」
中山は涙を流していた。
2009年5月。正芳が亡くなってからもうすぐ4年が過ぎようとしている頃である。警官の技術向上を図る為、全国警察官技能検定競技会なるものが初めて実施された。全国の警察官を対象に銃の扱いや捜査、取調等、あらゆる警察官に必要な技術を競い合いその優勝者を決めるというものであった。署内、県内エリア、県を勝ち抜いた者が全国大会に出場し最も優秀な技術を持つ警察官を認定する競技会だ。静香はそれらを勝ち抜き全国大会に出場。そして優勝したのであった。
今に至るまでの静香の過酷な日々を知っている中山は涙を流さずにはいられなかった。静香の名前が呼ばれた瞬間、胸が熱くなった。
「第一回全国警察官技能検定競技会優勝者は…千城県中央署、皆川静香!」
会場にどよめきと拍手が鳴り響いた。全国ベテラン警察官を抑え、27歳の女性警察官が優勝したからだ。しかし競技会中、静香の技術を見た者は全員が納得していた。
はしゃぐ事もなくクールに壇上に上がり表彰される静香。一言を求められマイクを握る。大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出してからスピーチを始めた。
「自分では驚いてません。私は優勝するつもりでここに来た訳ですから。私は警察官という者は犯人を逮捕してからが大切なんだと教わりました。犯人を逮捕したから平和になるのではない。逮捕した犯人が罪を償い心を改めてこそ平和になって行くんだと恩師に教わりました。銃は憎しみで撃つのではない、犯人への愛情を持って撃つんだと教わりました。恩師はそんな思いで私にこの特注の銃、LADY GUNを与えてくれました。私は世の中を平和にしたい。恩師の教えを引き継ぎ、平和にしたい。その気持ちがこの賞をもたらしてくれたんだと思います。」
静香の事情は誰もが知っていた。胸を熱くする警察官は少なくなかった。
「私はこのLADY GUNで世の中を平和にしてみせます。私は逃げない。迷わない。1人じゃない。」
感動で会場が静まり返った。そんな素晴らしい式の中、とんでもない事が起きた。
「私はこのLADY GUNと共に悪と立ち向かいます。悪に憎しみは持ちません。愛情を持ってこの引き金を引きます。」
静香はLADY GUNを構え前方斜め上に構え引き金を引いた。
「パン!!…ボフッ!!」
「えっ?」
全員が耳を疑った。そしてここまで冷静だった静香がいきなり動揺を見せた。
「す、すみません…、実弾が入ってました…。」
「!?」
全員がビビった。出席した警視庁総監は口を開けたまま唖然としていた。よもやの実弾発砲で幕を降ろした競技会。静香には優勝の栄光の副賞として1ヶ月の謹慎処分がプレゼントされたのであった…。