2つのモンスター-3
喜多和典が収監されている七北刑務所に面会の依頼の電話をかけた静香。一度電話を切り待っているとすぐに電話が返ってきた。
「喜多和典は面会に応じるそうです。明日の朝12時からで宜しいですか?」
「はい。宜しくお願いします。」
電話を切り少しだけ溜め息をついた。
「喜多和典…。」
その名前をボソッと言った。正直な気持ちを言うと、頭に銃弾を打ち込みたい気分であった。その煮えくり返る感情を抑止しているのは正芳の教えだった。憎しみで銃は握らない…、静香はそれを強く自分に言い聞かせた。
会ったからと言って重大な秘密を喜多が口にする訳がないのは分かっている。ただ確かに中山が言う通り、喜多に合わなければ時計の針が動かないような気もした。とにかく会ってみよう、そう思った。
翌日、約束の時間に刑務所に出向いた静香。面会室に入り喜多の到着を待っていた。すると職員に付き添われてその男はやってきた。
「ったくよぉ、大事な昼飯の時間がなくなっちまうよ。その分余計に昼休みくれるんだろうなぁ!?」
人をなめた口調でそう言いながらあさっての方向を見ながら喜多が入室した。長かった髪は坊主に変わっていた。ほぼ同年代の喜多は昔より顔つきが悪く見えた。その喜多が静香に視線を向けた。
「あっ…?こ、こりゃまたずいぶんといい女になった事…。」
驚いた顔は一瞬で消え、まるで風俗嬢を見るようないやらしい顔で静香を見た。
「あなたは随分老けたわね?」
「へ〜、口も達者になったもんだわ!ハハハ…!とてもビビって拳銃ぶっ放して人を殺したネーチャンには見えないよ。」
「…」
ギュッと握った手は悔しさを押し殺しているのか、それともあの時の恐怖が蘇ったのか…自分でも分からなかった。
「元気そうで何よりだわ?」
「お互いね?しっかしなぁ、人を殺して刑務所にぶちこまれる人間もいればのうのうと塀の外で人生楽しんでる人間もいる…。同じ人殺しなのにな〜?」
人生楽しんでのうのうとしていた訳ではないと反論する意味の無さを感じた静香は言葉を飲み込んだ。
「あの時はガキっぽくてあんまムラムラしなかったけど、いやー、ムラムラすんなぁ、今は!こっちはたまってっかんなー!おまえのヌレヌレのオマンコでスッキリしたいよ、マジで!」
「右手の恋人も相手にしてくれないのかしらね?左手は?左手で浮気したら?てゆーか、刑務所ってオナ禁?」
自分でも恥ずかしくなるような言葉を言った。
「なんだとコラッ!!」
イラッとする喜多を叱る職員。
「落ちつけ!あなたも必要以上に挑発しないように。」
「す、すみません。」
頭を下げる。喜多も落ち着きを取り戻す。