2つのモンスター-2
謹慎明けに出署した静香をお祝いと冷やかしで迎えた中央署。
「しかし警視庁長官の前で実弾ぶっ放つとは、さすが皆川だな!」
「からかわないで下さいよ!て言いますか部長、あの時私を見て笑ってましたよね??」
「俺は感動して泣いてたけど?」
「私がスピーチしてるときは泣いてらっしゃいましたけど、総監に怒られてる時笑ってたじゃないですか!?」
「そうだっけ??アハハ!でも賞が取り消しにならなくて良かったな?」
「終わったと思いました。」
「ハハハ、でもそれだけ優秀だったって事だな。警視庁本部への栄転の話もあったぐらいだからな。でも良かっのか?断って。」
「はい。私は上原さんのやり残した仕事をする為に復職したんですから。」
「そうか。そうだな。」
「部長も優秀な部下を手放したくありませんでしょうからね!」
「良く言うよ!ま、それもそうだな。これからも頼むぞ?」
「はい。」
他の署員達からもいじられながら仕事に戻る。
「1ヶ月すみませんでした、近藤さん。」
「いやいや。じゃあ不在期間の捜査資料を渡すよ。」
「ありがとうございます。」
不在期間中に起こった事例に目を通す静香。当然麻薬捜査課に所属している静香。
「何か未成年の逮捕者が目立ちますね。」
「ああ。それにここ最近は女性の逮捕者が増えてるね。何か繋がりありそうだなぁ。」
静香は表情を引き締めた。
「R4コーポレーションの分子の影はありそうですか?」
静香にとって永遠に忘れられない名前だ。名前こそ変えたが水面下でそれに関わっていた者が未だに生き残り活動している噂がある。静香は心情的にその捜査に力が入ってしまう。
「なかなか尻尾を掴めないなぁ。こいつらしょっぴけば一気に麻薬がらみの事件を沈静化できそうなんだが…。」
「近藤さん、私、喜多に会ってきます。」
近藤のみならずその会話が聞こえた署員は動きを止め静香を見た。
「し、しかし…」
「私は平気です、もう。いつまでもヒッキーしてたら前へ進めないから。」
正芳を殺害した喜多と静香を対面させるのはタブー視されてきた。中央署に置いて非常にデリケートな問題であったのだ。その殻を今、静香が自ら破ろうとしている。緊張が走った。
「…部長に相談するか。」
近藤がそう呟いた時には既に隣に中山がいた。
「って、もういるし!?」
驚く近藤。
「行って来い。じゃなきゃお前の止まった時計の針は動き出さないんだろ?」
「はい…。」
神妙な顔つきで答えた静香だが…。
(そんな大袈裟なつもりはなかったんだけどな…)
そう思った。とりあえず許可は下りた。その時は軽く思っていたが、上原を殺した喜多の顔を見ると思うと穏やかではいられない自分に気付いた。