復活への道-1
皆川静香は正芳の葬儀の後、休職願を出した。上司もその方がいいと判断。最低マスコミ等のほとぼりが冷めるまで休ませた方がいいと会議でも決まった。
一人暮らしの静香。実家に帰る事も考えたがそうはしなかった。独りでいたい…、その気持ちが強かった。
静香はどうしても正芳の家族に会って話したかった。葬儀では取り乱してしまい何も伝える事が出来なかったからだ。徒歩で駅まで向かい電車とバスを使い正芳の家に向かった。途中、様々な思いにかられた。一番辛かったのは自分のせいで大事な人を失ってしまった家族だ。恨んでいるだろうか…、恨んでいるに違いない。憎んでいるだろうか…、憎んでいない訳がない…。考えれば考えただけ辛く、そして怖くなってきた。正芳の家が近づくにつれ足取りが重くなる。鉛のついたような足を少しずつ前に進ませながら静香はプレッシャーに押しつぶされそうな体と心に必死で耐えていた。
一度正芳が捜査中に忘れ物を取りに戻ってきた事がある。静香は車の中で待っていた。その時に正芳の家は確認していた。やがて見覚えのある家が見えた。気持ち悪くなってきた。吐きそうだ。怖い、とてつもなく怖い。一度立ち止まり引き返そうかとも思ったが、それでは何の為にここまで来たのか分からない。静香は前へ足を進めた。
玄関に立つ。震える指で呼び鈴を押そうとするがなかなか勇気が出ない。あと数ミリ…そんな僅かな隙間が物凄く遠い気がしてならなかった。
「皆川、静香さん??」
背後から名前を呼ばれてドキッとした。振り返るとベビーカーを押して帰って来た正芳の妻、麗子がいた。
「あ…」
言葉が出ない。心の準備も出来ていない静香。そんな静香を家の中に招き入れる。
「ほら、記者とかいるかも知れないから中に入りなさい?」
「は、はい…」
恐れ多くも中へと入る静香。
「ごめんなさいね?なんか散らかってて。」
そう言って乳児を抱き上げ玄関を上がった。静香は麗子の後ろ姿を見て体がすぐに反応した。
「本当にすみませんでした!!」
「えっ…?」
振り返ると玄関の地べたに土下座して頭を深々と…、いや地面に額をつけている静香が見えた。
「な、何してるの…!?」
静香のいきなりの行動に驚く麗子。
「私のせいで…私のせいで上原さんは…。私のせいで…ゴメンナサイ!本当にゴメンナサイ…!」
静香は涙声で謝った。
「やめて?そんな事しないで?」
麗子は慌てて乳児を寝かし玄関に戻った。素足で降り静香の体を抱き上げる。
「ゴメンナサイぃぃ!ゴメンナサイぃぃ!」
子供のように泣き喚く静香。
「あなたが苦しむ必要はないの。悩む必要もないの。あの人は刑事だから。警察だから。正義の為に命を張るのは当たり前の事。だから泣かないで?さ、上がって?」
麗子は静香の体を支えながらリビングへと入った。ソファーに静香を座らせ背中や頭を優しく撫でていた。