復活への道-6
それから暫く静香は殆ど家に引きこもっていた。時が経てば楽になる…そんな事は全くなかった。警察を続ける続けない以前に正芳の命と高田道彦の2つの命を奪ってしまった自責の念が日増しに大きくなっていった。
中山は静香を休職扱いとして報告していたが復帰は期待していなかった。静香はシャワーや食事など一般的な生活は取り戻す事が出来たが、食材を買いに出かける以外は外出はなかった。部屋に入れば殆ど一点を見つめ考え込む毎日だった。
美しく染められていた髪は気付けば白髪に変わっていた。それほど神経はすり減っていた。鏡に映る自分は40歳台にも見えたが特に嘆く事もない。どこか他人のように思えた。
食材を買いに出掛けた時、子供同士が喧嘩をしていた。逆上した子供が相手を押し段差から落ちて額から血を流した。
「痛ってー!!この人殺し!!」
その子供がそう叫んだ瞬間、その言葉がまるでナイフで心臓を突き刺されたような痛みが走った。
「ひ、人殺し…、人殺し…、い、嫌ぁぁぁ!!」
静香は買い物袋を地面に落とし顔を手で覆いながらガクガクと震え泣き叫びながら走って行った。
「人殺し…違う!違うの!!殺したくて殺したんじゃない!ち、違う…人殺しじゃないの…!!」
静香は頭の中を混乱させながらアパートに急ぎガクガク震える手で鍵を開け中に逃げ込むように入り施錠した。
「人殺しじゃない…人ごろ…し…」
頭の中に血だらけになり息を引き取る正芳と高田の姿が蘇る。
「人殺し…、私は人殺し…」
静香は玄関にうずくまり、まるで北極にいるかのように激しく体を震わせて泣き叫んだ。
この時だった。警察を辞めようと決心したのは。静香は朝まで玄関でうずくまっていた。その様子はまさに麻薬常習者の禁断症状そのものだった。目は腫れ目の下にくまができた。人を殺した銃を握った手を見つめ胸が締め付けられた。
「上原さん、ごめんなさい…。私にはもう無理です…。」
警察を辞めようと思った瞬間、なんとなく肩の荷がフッと軽くなったような気がした。