復活への道-3
どんなに泣いていても優しい手で体を撫でてくれる麗子に大きな愛を感じた。静香はなんとか気持ちを落ち着かせて涙を止める。そんなタイミングを見計らってか麗子は言った。
「刑事の家族ってね、常にこういう事態を覚悟してなきゃいけないと思うの。私は結婚した時、いえ、あの人と一緒になろうとした瞬間からその覚悟は持ってたわ?若菜も父の仕事を理解するようになってからはそうだったと思う。だから父が警察という仕事の中で亡くなっても刑事になりたいと思ってるんだと思う。私はまた覚悟しなきゃならないのね。似た親子を持つと苦労するわね。」
にこやかに溜め息をつく。
「私はあなたの命が助かって凄く安心したの。」
「どうして…ですか…?」
「だってあなたのご両親が悲しまなくて済んだじゃない!もしあなたが亡くなってご両親が悲しみに包まれたら私、辛くて胸が張り裂けそうだもん。あの人だって同じだったと思うわ?一生助けられなかった無念を胸に生きていかなきゃならなかったと思う。あの人が命がけであなたを救った事、私は誇りに思う。あの人と愛し合えて本当に良かった…、そう思う。」
どうしてこの人はこんなに強いんだろう…、不思議に思える程の大きさに何打ちのめされた気がした。静香は正芳の最後の言葉をどうしても伝えたかった。
「悲しませてしまったらごめんなさい。上原さん、血だらけになりながら私に言ったんです。家族に愛していると伝えてくれって…。妻と、子供達に愛してるって伝えてくれって…」
その言葉を聞いた瞬間、麗子の動揺を感じた。しかしそれはすぐに穏やかな微笑に隠された。
「あなたには何て言ったの?」
「本当の娘のように思ってた…、そのLADY GUNで世の中変えてみろって…」
また涙が頬を伝う。
「そっか…。伝えてくれてありがとう。あの人を最後抱きかかえてくれて守ってくれてありがとう。あの人に代わってお礼するわ。ありがとう。」
「そ、そんな…」
「私はあなたが伝えてくれた言葉で報われたわ?今度はあなたが報われるばよ?あの人のお願いを聞いてあげて?世の中変えてみせてね?」
「上原さん…。」
再び涙が溢れる。いくら泣いても静香を優しく抱きしめ温かい愛情で包み込んでくれる麗子に静香は涙が枯れるまで泣いた。
仏壇に手を合わせて思いを正芳に伝えた静香。正直気持ちは全然晴れる事はなかった。逆にますますこんな素晴らしい家族の大切なものを奪ってしまった後悔の念でいっぱいになってしまった。当然世の中を変えるどころか刑事を続けていく気にも全くなれなかった。
「また正芳と、それに私に会いに来てね?静香ちゃん。」
「はい…。」
深々と頭を下げ見送る麗子の温かい視線を背中に受けながら上原家を後にした。
(もうダメ…。)
何がダメなのか自分でも説明できない。とにかくダメだと思った。気付けば部屋の中で肩を落として床を一点に見つめていた。静香の人生から生活が消えたまま時計の針は一秒一秒刻々と進んで行ったのであった。