キャンプ場のある村-3
キャンプ場の入り口は、それからしばらく山がちな道を上っていって、車がようやく通り抜けられるかどうか、というぐらい狭い未舗装の道をくねくね曲がった先にあった。
木造の小さな、少し傾いた管理棟の前の椅子に白髪の老人が一人タバコを吹かしながら座っていた。
健太郎は運転していた車を管理棟の脇にある無駄に広い駐車場――ただの空き地風情の――に駐めた。彼らの車の他には、自転車はおろか、車輪のついた物は一台も駐まっていなかった。
「こんにちは」夏輝が老人に声を掛けた。
「へい、いらっしゃい。よぐ来たな」
その老人が威勢良く立ち上がって大声を出したので、夏輝とその横に一緒にいた春菜は思わず仰け反ってしまった。
「あ、あたしたちキャンプに来たんですけど、」
「シンプソンさんだね? 予約すてた」老人はにこにこ笑いながら言った。「にすても、日本語がうめえ外人さんだねえ」
「い、いえ、あの」夏輝は口ごもった。
「見がげも日本人だなあ」老人はポケットからおもむろに携帯用灰皿を取り出して、咥えていたタバコを中に突っ込んだ。
「あたしたち、生粋の日本人ですからご安心下さい」春菜が言った。
「そうけ。んじゃそこの帳面に代表者の名前書いてくんねが?」
「あ、はい」
春菜は老人に促されて、管理棟の窓際に置かれていた、日焼けして黄ばんだノートにボールペンを走らせた。そして百円玉を躊躇いがちにその老人に渡した。
「あんがとよ。お賽銭」老人は春菜に向かって手を合わせて拝んだ。
「『お賽銭』?」夏輝が怪訝な顔をした。
車からキャンプ道具を出して、背中に大きなリュックを背負った健太郎と修平がやって来た。
「テント張る場所はどこっすか?」修平が老人に尋ねた。
「こっがら上がればすぐだー。一本道じゃから迷うこだねえ」老人は駐車場の奥から上に伸びる小径を指さした。
「よし、じゃあ行こうか」健太郎が言って、その獣道のような小径に向かった。三人も後に続いた。