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Twin's Story 外伝「Hot Chocolate Time 2」〜幻影タイム
【複数プレイ 官能小説】

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キャンプ場のある村-2

 車は次第に狭くなる道を辿っていた。

「腹減ったな。どっかで昼飯にすっか」修平が唐突に言った。
「そうだね。もう着いたも同然だしね」夏輝が脱いでいた靴を履き直した。
「何か食べるような店なんて、見当たらないな」健太郎がハンドルに身を屈めるようにして速度を落とした。
「『うどん・そば』って看板があっぞ、あの先に」
「ほんとだ」
「いいんじゃない? 田舎らしくて。入ってみようよ」
「じゃ、寄るから」健太郎はハンドルを握り直した。
 その店に近づいた時、修平が腕組みをして呟いた。「何か、流行ってなさそうだな……。ここも年間平均利用者数一桁ぐれえじゃねえの?」


 その店は民家に毛の生えたような風情だった。意図的にそうしてあるのかどうか不明だが、軒下の不必要に大きな木の看板は斜めに傾いていた。でっかく『鎮守が森艶姿雌狐親子食堂』と書いてある。


「解りやすい屋号だな。ってか、安直な、と言うべきか……」修平が首にかけたタオルで額の汗を拭いながら、すす汚れた看板を見上げた。
「だけど『親子』って言葉がくっついてるぞ」
「確かに」
「どういう意味なんだろうね」春菜が言った。
「入ろうよ」夏輝がそう言って、四人は暖簾をくぐった。


「え?」先頭で店の中に足を踏み入れた健太郎が思わず声を上げて立ち止まった。「い、意外にお客が多いな……」
 決して広いとは言えない店内に並んだ四つのテーブルは満席だった。「いらっしゃい!」威勢の良いハスキーな声が響いた。

 中に入ったところで立ちすくんでいる四人の前に、小太りで背の低い年寄りのおばちゃんが駆け寄ってきた。年寄りだが血色が良く、動きも俊敏だった。「ごめんね、カウンターしか空いてねえんだ。それでもええかい?」
「いいよな、別に」修平が健太郎に顔を向けた。健太郎は小さく肩をすくめた。
「丁度四人分空いてるしね」夏輝が先にカウンター席に向かった。

 狭い厨房で先のおばちゃんによく似た中年女性が汗だくになって麺を茹でていた。

「『親子』ってこのことじゃない?」夏輝が春菜に囁いた。
「そうかもね。親子でお店やってる、って意味なのね」

 すぐにさっきのおばちゃんが麦茶の入った四つの湯飲みを運んできて、白い手で健太郎たちの前に置いた。茶渋が遠慮なくこびりついたままのその湯飲みは、ことごとく縁が小さく欠けていた。
「……やるな」修平がその湯飲みを持ち上げて呟いた。「ここまで客に出すアイテムのメンテに気を遣ってない店も珍しいぜ」

 そして麦茶を一口飲んだ。

「おっ!」
「どうしたの? 天道くん」春菜が修平に顔を向けた。
「……うめえ! この中身の麦茶もただモンじゃねえ」
「そんなに?」夏輝が言って自分の湯飲みを口に運んだ。「ほんとだ。ただの麦茶じゃないみたい」

 食事前に普通に出された麦茶をそうして四人は感嘆しながら味わった。

「鎮守の森の伏流水をなめるんじゃねえよ」
 いつの間にか四人の後ろに先のおばちゃんがふんぞり返って立っていた。

「伏流水?」健太郎が身体ごと振り向いた。「地下水なんですか?」
「そうさね。蛇口をひねりゃ、出てくんのはお山の恵みの水さね」
「こんなに爽やかでおいしい麦茶を飲んだのは初めてです」春菜もにっこり笑って言った。
「お客はみんなそう言うがね」おばちゃんもにっこり笑った。「で、何食う?」

 実は四人は密かに困っていた。カウンターにはメニューが置いてなかったからだ。

「あ、あの、メニューは……」健太郎が申し訳なさそうに言った。
「めにゅー? ああ、お品書きだね。そんなモンはない」
「な、ないって、そんな……」
「うちで出せんのは四つだけなんだよ。」おばちゃんはそう言って壁の一画を指さした。剥がれかかり茶色に変色した紙が、容赦なくやかましいモーター音を唸らせている店の隅のエアコンから吹き出す風になびいていた。それがいわゆるこの店のメニューらしかった。
「『鎮守が森艶姿雌狐親子うどん』と『鎮守が森艶姿雌狐親子丼』『鎮守が森艶姿雌狐親子いなり』。うどんはそばにも代えられるがね。ほんで今あんたらが飲んでる麦茶の四つ」

「これも数にはいってんのか……」修平が湯飲みを持ち上げて呟いた。

「どうする?」健太郎は残る三人を見た。
「私、うどんにする」春菜が言った。
「あたしそばにしようかな」夏輝だった。
「俺はうどんといなり二皿」修平が手をピースのカタチにしておばちゃんに向けた。
「じゃあ俺もうどんといなり一皿」
「あいよ」おばちゃんはメモも取らずにきびすを返して厨房に駆け込んだ。


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