出会う-3
……最悪だ!
男はあたしが落としたライターを拾い、チラッとそれを見てから無言であたしに返してくれた。
見られた? ラブホのライターってバレた?
知らぬ間にじっとりと嫌な汗があたしの脇をつたっていた。
『モナリザ』は、地元でも割と人気が高く、国道沿いにデーンと看板が掲げられている、知名度の高いラブホテルだ。
多分この街に住む人なら誰でも知っていると思う。
職場での恋愛は見限ったから、こんなライター見られた所でどってことないはずなのに、なんでかあたしは一人で焦り始めた。
これがもし文屋さんや大久保さんなら、“こないだ行ってきたんです〜”なんて冗談ぽく言えるけど、名前も知らない他人にそんな冗談なんて言えるはずがない。
あたしはボソッと“すいません”とだけ言って、ひったくるようにライターを受け取った。
さらに悪くなる居心地に、頭の中はなぜかこのライターを所持していたことの言い訳を勝手に考え始める。
――そうだ、友達が彼氏とここに行って持ち帰ったライターを、あたしがもらったってことにしよう!
弁明するわけでもないのに、ごまかす理由ができると少し安心したような気になる。
ほんの少しだけ気が楽になったあたしは、サッサと煙草を吸って自分のデスクに帰ろうと決めた。
そしておもむろに煙草をくわえ『モナリザ』のライターを持ち替えた。