出会う-2
そこにいたのは、壁に寄りかかって一人紫煙をくゆらす背の高い男の人。
彼はあたしの方をチラッと一瞥だけして、すぐに俯き加減に自分の足元を見つめていた。
「あ、ドアをうるさく開けてすいません……」
気遣いのつもりで小さく謝ったけれど、男の人はうんともすんとも言わず、煙草を吸うだけだった。
……何この人、むちゃくちゃ感じ悪い。
さっきの課長の優しい笑顔に癒やされていただけに、この男の態度がムカついて、心の中で舌打ちした。
サッサと煙草吸って戻ろっと。
一服くらいはゆっくりしたかったけど、感じ悪い男と二人っきりの空間で、リラックスもなにもあったもんじゃない。
苛立ったあたしは、あてつけのようにこの男から少し離れた場所に移動して、制服のポケットからピアニッシモのボックスを取り出した。
ボックスの中には、先日塁と行った『モナリザ』のライターが無理矢理押し込められていた。
まだそんなに煙草が減っていなかったせいか、ライターが取り出しづらい。
苛立ちと、感じ悪い男と二人でいる居心地の悪さに、無意識のうちに焦っていたのか、やっと取り出したライターは、ツルリと手が滑り、床へと落ちてしまった。
ライターはあたしの黒いパンプスに当たり、掃除したての床をツーッと滑り、よりにもよってあの男の靴にぶつかって止まってしまった。