想いを言葉にかえられなくても《トロイメライ》-7
この時、六年と言った事を六年間ずっと悔やむとは露知らず…。
「二十歳か…解った。上手く行くかどうか解らないけど、絶対帰って来るから。」
目が合う。さっきまで泣いてたから、きっとあたしはヒドい顔してる…。
「指切りげんまん…嘘ついたら針千本のーます…」
幼い頃に戻ったみたい。何度もこの唄を歌った。お互い、少し照れたように笑い合う。
「苺…。…好きだ」
「……そんなの、初めて聞いた…。最後に言うなんて…」
「俺だって、さっき初めて聞いたんだけど。」
お互いに笑い合う。
唇が重なり合う…お互いの気持ちが繋がって、最初で最後のキス。そのまま黙って家に帰った。初めて手を繋いで……。
………………
「あんた本当に恭介君を好きなの?」
昼休み、お弁当をつつきながら三人で恋話を咲かせる。怜奈は年上の彼氏、夏海は同級生の彼氏がいて話は尽きない。もっとも、いつもターゲットにされるのはあたしなんだけど。
「…うん。多分好きだと思う」
「多分ってねぇ…」
「イチコはお子様だからなぁ」
あ、今日の卵焼き…失敗だったなぁ。ちょっと苦い。もっと練習しないとなぁ…
「…ほら、全然聞いてないし。」
「え、あ?…ごめん、ごめん〜っ。夏海、怒んないでよぉ」
「ったく…。それよりさぁ、山形先生が結婚するんだってよぉ?」
「はい〜ぃ?」
食べてた物を落としてしまった。勿体ない…
「なんか、お見合いしたんだって。相手は作家の娘で図書館の司書なんかしてる、淑やか美人。」
「…夏海、何でそこまで詳しいのよ…」
「いやいや、口の軽い先生がいてね」
「…さいですか」
結婚ねぇ…。
「きっと明日には、みんな知る様になるんじゃないかな?アイツお喋りだから」
多分、アイツとは天野の事だろう。特に、格好いい山形先生を一番疎ましく思ってるのも天野だし。
「んでも、その噂は良いかも…」
「何?イチコ、どうかしたの?」
山形先生を巡って喧嘩してる先輩方も、これで落ち着くだろうし。
「ん。吹奏楽部事情。これで部も安泰って事」
「山形先生は吹奏楽部顧問だもんね。」
「まぁね」
お弁当を食べ終わって歯磨きセットを取り出す。
「あ、待ってよぉ。今、食べ終わるから!」
「はいはい」
夏海が食べ終わるのを待つ。食べるより喋る方が多い夏海らしい。
笑いながら、だけど心には何かが引っ掛かっていた。
翌朝、学校に行ったらキョースケがご機嫌だった。いつもポーカーフェイスだけど、今日は嬉しさが滲み出てる…そんな感じだった。だからかな…なんだかあたしも嬉しくなっちゃって、朝イチでキョースケのクラスに駆け込んでしまった。
「山形、婚約したんだって!ビックニュースよ!キョースケ!」
なんとか話題が欲しくて、昨日の昼休みの情報を持ってきた。初耳だったみたい。ちょっと驚いている。だからあたし、少し得意になって色々話してしまう。
「でね、市立図書館で司書をしている知的美人なんだって。」
「…なるほど。」
「これでコンクールに集中出来るねっ」
「確かに元凶が落ち着けば騒ぐ事も無いだろうな」
「でしょでしょ!じゃあ情報料!」
いつもの様に頭を傾けた。聖にいつもして貰ってた…今はこうしてくれるのはキョースケしか心当たりが無い。懐かしくて温かい。……聖が…してくれないから。