〈ホールドアップ!!〉-8
「……や、八代ぉッ…!!」
逃げ惑う景子を見ていた八代が、悠然とタラップを登っていく。
このパトカーの追撃を逃れ、港から脱出するのは不可能に近く、金網の扉に辿り着く前に力尽きてしまうだろう。
もう進むべき道は一つしか無い。
八代が開けてくれたタラップを登り、甲板上で八代を倒し、金髪男を迎撃するのだ。
『あ〜……アイツ逃げやがった……』
『ま、かなり体力は使ったはずだ。八代もいるし、間違いは起きねえよ』
『でも拳銃を持ってますよ?油断は出来ないですよ』
パトカーはタラップに向けてヘッドライトを照射し、景子が降りてきたら轢く構えを取った。
撃針が折れたのを知らぬ専務達は、八代に“任せる”つもりのようだ。
(……優愛…!!)
カンカンとタラップは歌い、潮風が乱れた髪とスカートを擽る。
クレーンやブリッジ(艦橋)に備え付けられた作業灯はやたらと眩しく、熱すら感じさせるくらい。
遂に甲板に登ると、真っ直ぐにこちらを向いた八代が立っていた。
あの仏頂面が、今は不敵な笑みを浮かべている……もう勝利を確信しているかのようだ……。
「……何を笑ってるの?貴方を殺して優愛を連れて帰るから……」
景子は乱れる呼吸を必死に整え、射撃姿勢をとった。
髪はボサボサになり、スーツは土埃に塗れ、ストッキングはあちこちが破れている。
満身創痍に見えてはいるが、本当に引き金を引くと思わせるだけの威圧感に満ち、殿(しんがり)を遂行する命知らずの荒武者のような威厳すら感じさせる。
もう春奈は捕らえられている。
この絶体絶命の状況を乗り切るには、全身全霊の突撃以外に無い。
撃てない拳銃を構えるのも、もうこれしか無いというブラフ(脅し)であり、あのスキール音の中では、さしもの八代ですら聞き取れまいとの読みだ。