〈ホールドアップ!!〉-7
『俺が運転する。八代の手助けしてやらねえとな』
五体満足な部下達は金網の扉を開け、獲物を積んだ車へと乗り込む。
春奈より強いであろう景子を、全力で狩る為に……。
『お？いたいた！まだ八代の奴は無事みたいだぜ』
ヘッドライトに照らされた先に、拳銃を構えたまま後退りし、距離を保つ景子の姿が映った。
と、専務は窓を開けて空に向かって威嚇射撃をすると、思い切りアクセルを踏みつけた。
「……春奈!?」
振り向いた景子の瞳は、期待を裏切る現実に愕然とした……直進してくるパトカーの運転席に、あの金髪が見えた……制圧されたのは春奈の方だった……。
『クハハハッ!!八代ぉ、この俺様が助太刀致すぜぇ!!』
凄まじいスピードで迫るパトカーに、景子は拳銃を向けようとした……だが、その瞬間に八代が飛び掛かってくるかもしれない……その一瞬の迷いのうちにも、パトカーはグングンと距離を詰める……。
「く…ッ!!」
ギリギリのところで身を躱し、景子は飛び退いた。
だが、パトカーはスキール音を鳴らして回頭し、またも景子目掛けて突進してくる。
(……殺される!!)
命の危険に脈拍は跳ね上がり、呼吸はリズムを崩した。
起き上がる間もなくパトカーは目前に迫り、景子は必死に飛び上がって躱した。
(ッ!!!)
慌てて飛び退いたせいで、景子は拳銃をコンクリートの地面に打ち付けてしまった……本当なら柔道の前回り受け身のようにしなければならないのに、拳銃を握った手を、思わず地面に突けてしまったのだ……。
拳銃から聴こえたコキン！という音は、撃針が折れた音……もう弾を撃つ事は出来ない……ヒタヒタと、絶望の足音が背後から近付いてきていた……。
『専務、本当に轢き殺すつもりですか？』
『馬鹿野郎〜。あんなイイ女、勿体ねえだろが！こうやって体力を奪ってんだよぉ』
『イヒヒ！犬ッコロみたいに転げてるぞ!!』
専務は景子の削れていく体力に合わせ、そのスピードの増減をコントロールしていた。
髪を乱し、轢死の恐怖に引き攣る顔がライトに照らされ、そしてすんでのところで消えていく。
強力な武器を得た鬼畜に、景子は翻弄されっぱなしだ。