女子大生 成宮恵理-7
「奈々に連絡しなくてもいいの?」
「え?あぁ、別にいいって、いちいち報告しなくても。」
出されたお茶を口にしながら悠一郎はそう答えた。
「ダメだよ、そういう事はちゃんと言わないと。」
「いいっていいって、奈々は別に細かい事気にしないから。」
「でも……。」
カップルにもそれぞれスタンスというものはある。
もしかして悠一郎と奈々は、いちいち今自分がどこで誰と居るだなんて、報告し合わないカップルなのかもしれない。
奈々の知らない所で自分が悠一郎と2人きりになってしまっているというのは、やっぱりなんだか心苦しい気もするが、悠一郎が連絡する必要なんてないと言うのなら、それ以上恵理からは何も言えない。
2人の間の事に、口を出す権利なんてないのだから。
「それよりさ、映画でも見る?借りてきたんだけど。」
悠一郎は持ってきていたレンタルDVDの袋を恵理に向かって持ち上げて見せた。
おそらく奈々と見るつもりだった映画なのだろう。
「これを酒でも飲みながらさ、どう?つまみも買ってきたけど。」
そう言って今度はコンビニの袋からビールやチューハイをテーブルの上に出して見せる悠一郎。
どうって言われても。
「こういう大雨の時とか台風の時は部屋の中でひっそり映画を見るのが一番だろ?」
確かに。
ていうか特にやる事もないし、このままずっと2人きりの部屋でじっとしているのもなんだか気まずい。
こんな状況で悠一郎とどういう話をすればいいのかとか、分からないし。
映画に集中していれば会話しなくてもいいし、余計な事とかも考えずに済むから楽かも。
「別にいいけど。」
「よし、じゃあ決まりな。」
「何借りてきたの?」
「バニラ・スカイってやつ。見た事ある?」
「ううん、誰が出てるの?洋画?」
「洋画だよ、トムクルーズとキャメロンディアスが出てるやつ。」
トムクルーズ。
あぁそういえば奈々が好きだったっけ、トムクルーズ。
悠一郎が小さいテーブルの上に結構な量と種類があるつまみと、お酒を並べていく。
そして恵理はDVDを再生できるように準備する。
こういう映画、酒、つまみ、というセットがワクワクするのはなんでだろう。
「恵理って映画見るとき部屋暗くする派?」
する派。
でも今日はたぶん駄目な気がする。
恋人ではない男女が2人きりになっているだけでもあれなのに、部屋を暗くするなんて。
「あ、明るくていいよ、今日は。」
「いや、映画は絶対暗くした方いいって、雰囲気でるし。暗くするよ?」
じゃあなんで聞いたのよ。
結局自分の意見を押し通した悠一郎はシーリングライトのスイッチを切って部屋を暗くした。
悠一郎にはこういう所がある。
少し自己中心的っていうのか、でも良く言えば優柔不断タイプじゃないから、女の子からすれば引っ張っていってくれるような気がしないでもない。
2人はソファに並ぶように座って、暗い部屋の中で煌々(こうこう)と光るテレビ画面を見つめた。
このソファ、1人暮らし用であるから、どうしても2人の距離が近くなってしまう。
これが恋人同士だったらピッタリくっ付きながら映画を観たりするのだろうが、恵理と悠一郎はそういう訳にはいかない。
それを気にして、できるだけソファの端に座る恵理。
しかし横にいる悠一郎はそんな事あまり気にしていないようだった。
「ちょっと寒くね?」
悠一郎はDVDの再生開始ボタンを押す前にそう口を開いた。
確かにソファに座っていると手足が冷える。恵理は冷え性だったりするから尚更。
「うん……。」
「なんか掛ける物とかある?俺は我慢できるけど、恵理寒いだろ?」
こういう時はベッドから掛け布団を持ってきたりするのだけれど、ちょっと迷う。
暗くした部屋、1つのソファに座った男女、布団、というキーワードを並べると、なんだか危険な香りがするから。
でも人間、寒さには勝てない。
冷えた手足で映画を見ていても楽しめないだろうし。
恵理は仕方なくベッドから掛け布団を持ってきて自分の腰から下に掛けた。
すると案の定
「やっぱ俺も借りていいか?」
「えっ」
悠一郎は恵理の答えを聞くまえに布団を半分持っていってしまった。
布団のサイズ上、2人で分けるには距離を少し縮める必要がある。2人で引っ張るように使うと隙間が開いて寒いからだ。
しかし恵理の方からは動こうとしない。自分から悠一郎の方に近寄るのには抵抗があったから。
すると悠一郎が腰を動かして恵理の方に近づいてきた。
肩触れ合いそうなくらい近い。
これで暗い部屋の布団の中で身を寄せ合う男女の完成。
映画を観るなんてあっさり決めちゃったけど、いいのかな、この状況。