女子大生 成宮恵理-6
「とにかく、ダメなものはダメ。」
恵理は目の前で困り果てたような表情を見せる悠一郎を再び突き放した。
「そ、そんなぁ、俺にこの雨の中帰れっていうのか?」
「じゃあ、傘貸してあげようか?」
「傘なんて意味ねーよ、こんな暴風雨じゃ。」
しかし悠一郎も引かない。
それもそうか、こんな嵐の中に飛び込んで行くのは誰だって嫌だと思う。
それに友人が困っていたら雨宿りくらいさせてあげるのが普通だと思う。
でも、今の恵理ははい、どうぞ≠ニ簡単に悠一郎を部屋に入れる訳にはいかないのだ。
なんだか、以前のように気軽に部屋に入れてしまったら、ここ最近で少しずつ心の中に積み上げてきていたある種の壁が一気に崩壊してしまいそうで怖かったから。
悠一郎に対する壁。
仲が良過ぎた友達という関係から距離を置いて、普通の友達になるための壁。
「いやマジで、雨が弱まったら出て行くからさ、恵理頼むわ。この通り。」
改めて頭を下げる悠一郎。
悠一郎が着ている服はすでに雨で濡れてしまっているし、本当に寒そうだ。
根は優しい性格である恵理に、これを断る事は難しかった。
風邪でも引いたら可哀想だし。
「……もう、仕方ないなぁ。」
「お、いいの?ありがとう!マジありがとう!」
粘り勝ちした悠一郎は表情をパアっと明るくして恵理にお礼を言った。
そして悠一郎のその笑顔に恵理は内心ドキっとする。
この笑顔は今の恵理にとっては危険だ。あまり見ないようにしないと。
「ほ、ホントに、少しの間だけだからね。」
「あぁ、雨が弱まるまでな。」
そう言いながら玄関で靴を脱ぎ始める悠一郎。
雨が弱まるまでって、これから台風が近づいてくるというのに、今晩中に雨風が弱まる可能性なんてあるのだろうか。
恵理は小さくため息をついてドアを閉めた。
これで悠一郎と2人きり。
本当によかったのかな。
「おじゃましまーす。」
悠一郎は遠慮なく恵理の部屋に入っていく。
「あーもう、靴下濡れてるでしょ。」
靴の中まで濡れていたために、悠一郎が歩いていく場所には濡れた足跡が付いていた。
部屋に入って明るい場所で改めて見ると、本当に悠一郎はずぶ濡れ状態なのだという事が分かる。
シャツは肌にピッタリ張り付いていて、水分を吸ったジーンズは重そうだ。
「ごめん、脱ぐわ。ていうか着替えある?これ全部乾かしたいんだけど。」
「え、着替え?」
「前に大きめのジャージ貸してもらった事あるじゃん?あれでいいよ、恵理の元彼が着てたとかいうジャージ。」
図々しい奴。
でもその何の隔たりも感じさせない遠慮の無さが悠一郎の良さ、って前までは思ってた。
図々しいくらい何でも言ってくれた方が、私達は気心知れた仲なんだと思えて嬉しかったから。
ううん、本当は今でも嬉しいって思ってる。自分の中にあった悠一郎への思いに気付いた今でも。
でも、そんな嬉しがってる自分が嫌。だって苦しいだけだから。
「でさ、服と靴下は洗いたいんだけど。たぶんこのまま乾かすとすげぇ臭いと思うんだよね。」
部屋が汗臭くなるのは勘弁してほしい。
だから仕方なく悠一郎の濡れた服を受け取って洗濯機に放り込む恵理。
これも嫌。
自分の洗濯機に何の抵抗もなく悠一郎の服や汚い靴下を入れてしまえる自分が嫌。
きっと他の男の服だったら、気持ち悪くて入れられない。
洗濯機を動かし始めて部屋に戻ると、そこにはすでにパンツ一丁になっている悠一郎がいて、恵理はそれを見て思わず顔を赤くしながら目を逸らした。
「ちょ、な、なんでそんな格好してるのよ!」
「いやだって、ジーパンも乾かさないと。」
「わ、分かったから、早くジャージ着てよ。」
ジーンズを受け取った恵理は、代わりにクローゼットから出した元彼のジャージを悠一郎に投げつけた。
悠一郎はこうやって見ると妙に男らしい身体をしていたりするから困る。
身長は高いし、余計な脂肪が殆ど無いような引き締まった身体してるし、肌もやたらと綺麗だし。
奈々との性行為を盗み聞きしてしまっている恵理にとっては尚更、悠一郎の裸姿は刺激が強かった。
ああ、この身体に奈々は抱かれているんだ。なんてどうしても考えてしまう。
そして悠一郎の、あのセクシーな声を思い出して身体が熱くなる。
「はい、タオル。」
「サンキュー。」
悠一郎の濡れた頭にタオルを掛けると、恵理はキッチンでお湯を沸かしてお茶を入れ始めた。
至れり尽くせり。
元々世話好きな所があるからなのか、なんだかんだで悠一郎の冷えた身体を温めてあげたいと思っている自分がいた。