女子大生 成宮恵理-5
『ハァ……ハァ……』
その熱の篭った息遣いに、いつも身体が反応してしまう。
さっきまで楽しそうな笑い声がしていて、急に静かになったと思ったら、しばらくしてからその吐息の混じった声が聞こえてきた。
そして同時に鳴り始める、ベッドがギシ……ギシ……と軋む音。
今日も始まった。
この薄い壁の向こうで、悠一郎と奈々は今まさにSEXを始めたのだ。
恵理は1人、明かりを消した薄暗い自室でその声や音に聞き耳を立てる。
布団の中に入り、目を閉じて、集中して聞く。
本当はこんなの聞きたくないはず。
自分の中に存在していた、悠一郎への想い。
それに気付いてからは、ただただ悲しかった。
隣から2人の楽しそうな声が聞こえてくる度に苦しくて、涙がこぼれた。
そして心の中に生まれる、嫉妬という感情。
苦痛だった。
それなのに、なぜか聞こえてくる声に耳を傾けてしまっている自分がいた。
知らず知らずの内に聞き入ってしまう。
悠一郎の声に、夢中になってしまう自分がいた。
今までは意識してこなかったけれど、今ではハッキリと分かる。
私は悠一郎の声が好き、と。
あの普段聞かせてくれる、カラッとして明るい声が好き。
そして壁の向こうから聞こえる、男らしい声と息遣いにもウットリしてしまう。
なんというか、悠一郎の声や息遣いは、とてもセクシーだった。
その声に胸の奥をギュッと掴まれて、頭の中がピンク色に染まっていく。
『ん……はァ……あっあっあっ……』
奈々の喘ぎ声。
普段の奈々の口からは聞いた事ないような色の声。
感じてるんだ。
声を抑えようとしているけど、それでも気持ち良くて漏れてしまう、そんな感じの声だった。
『あっあっダメッ……ハぁンッ!ンッあっあっあっ!はァアアア!スゴイ……あっあっ……』
ギシギシギシギシッ……!!
音も声も、段々と激しくなっていく。
こちらまで震動が伝わってきそう。
奈々は大分快感を感じているようで、切羽詰った感じであられもない喘ぎ声を発していた。
恵理にもSEXの経験はあるが、こんな声は出したことがない。
悠一郎君って、エッチ上手なのかな。
悠一郎の、卑猥な妄想で頭の中が埋まっていく。
そして布団の中で恵理の右手は自然と下着の中へと移動していった。
濡れてる。
グッショリと、自分でも驚くくらいに。
「ん……」
自分の愛液で指を濡らし、敏感な部分を刺激する。
自慰行為、マスタターベーション、オナニー。
恵理は元々それを滅多にしないタイプだった。
したとしても数ヶ月に一度するかしないか程度。
だから自分ではそれ程性欲が強いとは思っていなかった。
でもこうして奈々の喘ぎ声の隙間から聞こえてくる悠一郎の息遣いと、恐らく悠一郎が腰を動かしている事で揺れているであろうこの震動を感じると、どうにも我慢できなくなってしまう程の性的欲求が湧いてきてしまう。
『あっあっあっ……ハァアア……イク……アアッ!』
奈々が果てる。
その後にベッドが軋む音も止まって、悠一郎も果てた事が分かる。
そしてそれと同時に恵理の手の動きも止まる。
恵理だけがイけない。絶頂無き自慰行為。
自分1人ではなかなか達する事ができないから、もどかしい。
行為が終わって、隣からはまた2人の話し声が聞こえてくる。
いつも終わった後の奈々は、甘えん坊さんのような声で悠一郎と話してる。
それを聞いて、恵理は途轍もない虚しさを感じ、憂鬱になった。
あぁ、病んでしまいそう。
でもオナニーは止められなかった。
悠一郎は週に何回かは必ず奈々の部屋に泊まりに来る。
その度に2人は身体を重ね、そのすぐ隣、壁一枚を挟んだだけの空間で、恵理も同時にオナニーを繰り返していた。
切ないし、悲しいけど止められないという、なんだかある種の依存症のようになってしまっていた。
性的快感の気持ち良さをこのオナニーで生まれて初めて知ったから、というのもあるかもしれない。
悠一郎の事を想いながらの1人エッチは気持ち良い。
しかし身体を自分で慰めていても、心だけは消費されるように日々痛々しく削られていくのを感じていた。
だから心はボロボロ。
もう限界かもしれない。
でもどうしたらいいの?
なんだか全てが嫌になって、逃げ出したくなる。
親が許してくれる訳がないけれど、大学さえ辞めたいと本気で思い始めていた。
恵理の心はそこまで追い詰められていたのだ。
しかし丁度その頃だった、あの台風が来たのは。
そしてあの夜を迎えたのだ。