女子大生 成宮恵理-4
悠一郎と奈々は付き合いだしてからも今まで通りに恵理に接してきた。
2人は恵理の部屋にもよく遊びに来ていたし、食事にも3人で行ったり。
しかし、それは長くは続かなかった。
少しずつ距離を置き始めたのは恵理の方からだ。
当たり前といえば当たり前。
恵理が2人に気を使わずにいれるはずがない。
悠一郎と奈々は恵理の前では全く以前と同じ態度、3人の関係は平等、同じ距離感を保っているように見える。
しかし恵理がいなくなって2人きりになった途端に、その距離は一気に縮み、ラブラブのカップルに切り替わるんだ。
それを想像するだけで、何か自分が邪魔者であるような気がしてしまう。
悠一郎と奈々は恵理の事を邪魔者だなんて思っていないのだろうが、恵理がそう思ってしまうのだ。
私、邪魔じゃん、と。
だから恵理は2人からの誘いを何かと理由を付けて断るようになっていった。
奈々は恵理と3人でいる時の方が楽しい!なんて言ってくるけれど、それは違うでしょ。
恋人同士が2人きりでいる時と、友達とワイワイやってる時の楽しいは、全く意味が違うのだから。
恵理だって、今までに男性と付き合った事くらいはある。だからそれはよく分かるんだ。
いいよもう、2人で仲良く幸せな道を歩んでいってよ、私は私で他の道を進んでいくからさ。
そんな少し投げやりな気持ちになる。
いや、実際それしかないでしょ、と恵理は思っていたのだが、現実はそう簡単にはいかなかった。
なぜなら、恵理と奈々は同じアパートで隣同士の部屋に住んでいるのだから。
距離を置こうと思っても、物理的な距離は近いまま。
あからさまに避けない限り、毎日顔を合わせてしまう。
いっその事引っ越そうかななんて思ってみたりもしたが、それは無理。
このアパートの家賃を全て親に払ってもらっている恵理、なんて説明したらいいのか。
正直に話しても許可が出るかは微妙だし、そんな恥ずかしい話はしたくない。
ストーカーに狙われてて、なんて言ったら引っ越させてくれるかもしれないが、この歳になって親に嘘をつくのにも抵抗がある。心配もするし。
だから残りの大学生活、このアパートで暮らすしかない。
隣同士で何か問題があるの?と聞かれれば、大いにあった。
それは悠一郎と奈々が付き合いだして2ヶ月程が過ぎた頃からだった。
恵理の部屋まで聞こえてくるのだ。2人のあの時の声が。
男女の付き合いをすれば誰でも必ずするあれ≠フ事。
最初の頃はホテルを使っていたようだったけれど、なにせ2人はまだ学生でお金がない。
悠一郎の部屋に行けばいいのにって思ったけれど、よく考えたら悠一郎は大学が提供している激安男子寮に住んでいて、寮は異性の連れ込み厳禁だったからそれができなかったのだろう。
しかしそれは恵理にとっては迷惑な事だった。
微かに聞こえるとかそういうレベルではない、まさに丸聞こえ。
このアパートってこんなに壁薄かったっけ?
そういえば前はよくテレビ番組なんか見てると奈々からメールで『恵理今〇〇見てるでしょ〜?私もそっち行って一緒に見ていい?』などときて、こっちの部屋によく遊びに来てたっけ。
あの時はプライバシーとかそんなに気にならなくて楽しかったから良かったけれど、今となっては問題あり。
どれだけ薄いのよ!ベニヤ板一枚かよ!ってくらい聞こえる。
しかし恵理はそれに対して親しい友人らしく『も〜ちょっとぉ!聞えてるんですけどぉ!』と笑いながら突っ込む事などできなかった。
だって、ショックだったから。
あ〜、2人は男と女として本当に付き合ってるんだな、私は1人になってしまったんだなと実感して、なんだか同時に2人の友達を一気に失ってしまったようで、ショック。
それだけ?
本当に1人になったと思うの?関係が変わったといっても2人が自分にとって友達である事には変わりはないのに。
分からない。
どうして心から2人を祝福できないのかが、自分でも分からない。
隣から聞えてくる、男と女の声、息遣い。
いや、特に恵理の耳に届いていたのは男の方の声、悠一郎の声だった。
そう、恵理は初めて聞く悠一郎の男の声にショックを受けていたのだ。
そしてそこで恵理は気付いてしまったのだ。
2人が付き合っていると聞いて、どうしてあんなにも動揺してしまったのかを。
その悠一郎の声を聞いて、どうしてこんなにも胸が苦しくなるのかを。
奈々の言葉を思い出す。
『好きだった事に気付いたって感じかなぁ。』
苦しかった胸が、一気に熱くなった。
そうか、好きだったんだ、私も。