女子大生 成宮恵理-14
結局悠一郎はその夜、恵理の部屋に泊まっていく事になった。
恵理は何度か「やっぱり止めた方がよくない?」とは言ってはみたものの、悠一郎はその度に「大丈夫大丈夫。」と気にする事なく笑っているだけだった。
自分から奈々にメールを送ろうかとも思ったが、どういう風にこの状況を説明すればいいのか分からなくて送れなかった。
それからしばらくは、ソファに座ったまま深夜のバラエティ番組を見ていた悠一郎と恵理。
悠一郎が持ってきたお酒は二人で全部飲んでしまい、今ではアルコールがしっかり全身に回っている。
頭がボーっとして、だから冷静な判断ができていないのかもしれないと、そんな風に悠一郎を泊めてしまう事をお酒のせいにしたくなっている自分の弱さを実感する。
でも実際、私は弱いんだ。傷ついて傷ついて、もう弱りきってるの。
「そろそろ寝る?」
悠一郎の声で時計を見ると、もう夜中の2時近く。
不思議と眠気は殆どないけれど、もう遅い時間だ。
「あー、うん。」
そう言って恵理はソファから立ち上がろうとするが、やはり足元がフラつく。
「おいおい大丈夫か?俺がベッドまで抱っこしていってやろうか?」
「じょ、冗談!自分で行けるから。あーぁ、ホント飲み過ぎたぁ……」
「いいじゃん、後は寝るだけなんだし。」
「そうだけどぉ。」
「ほら掴まれ、転ぶなよ。」
「うん。」
悠一郎の手を借りてベッドに移動する恵理。
悠一郎に触れられると、やっぱりドキドキしてしまう。
「なぁ恵理、俺どこで寝たらいい?」
「えーっと……ソファかな。」
「俺ベッドで寝たいんだけど。」
「え?じゃあ何、私にソファで寝ろって事?」
「いやそうじゃなくて、恵理もベッドで寝ればいいじゃん。」
悠一郎の言っている意味が分からなくて、しばらくアルコールの回った頭でグルグル考える恵理。
「……それどういう事?」
「いやだから、恵理もベッドで寝て、俺もベッドで寝る。」
「……バカじゃないの。」
突拍子のない事を言い出した悠一郎を恵理は呆れかえった目で見た。
「違うって、ほら掛け布団一枚しかないしさ。」
「えー悠一郎君は無しで寝ればいいじゃない。」
「いやそれキツイでしょ。今日結構寒いぞ。」
確かに今日は台風の影響で気温が下がっているのか、少し肌寒い。
でも耐えられない程でもないような気がする。
「ダメ!我慢してよ、そのくらい。」
恵理が強い口調でそう言うと、悠一郎は残念そうにソファに寝転がった。
「ソファだと俺、風邪引いちゃうかもなぁ。」
「勝手に引けばいいよ。」
「じゃあ風邪引いたら看病してくれよな。」
「……看病なら奈々にしてもらえばいいでしょ?……あーぁ、もう嫌……」
単純に嫉妬してしまっている自分に嫌気がさす。
羨ましい、悠一郎の彼女になれている奈々の事が。
こうやって悠一郎と一緒にいると、そういう気持ちも大きくなってしまう。
「冗談だって、別に怒らなくてもいいだろ。」
「怒ってない!……もう寝よう。で、明日朝一番で帰ってね。」
「はいはい。あっ、朝飯作ってくれる?」
「はぁ?なんで私がそこまでしないといけないのよ。」
「だって恵理料理上手じゃん。最近恵理の料理食ってないなぁって思って。」
そんな風に褒められて、素直に嬉しくなってしまうのが悔しい。
3人で遊んでいた頃はよく恵理が料理を作って悠一郎と奈々に食べさせてた。
奈々は殆ど料理しないから。
「……まぁ……朝ご飯くらいならいいけど。」
「マジで?よっしゃ!俺朝めちゃくちゃ食うからさ。」
「フフッ、そうなんだ。じゃあ沢山作るね。」
私が彼女だったら、毎日でも作ってあげられるのに。
それで悠一郎が美味しそうに食べる顔をじっと眺めるんだ。
想像するだけでニヤついてしまう程幸せな気分になってしまう。
「何作ってくれるの?」
「うーん何にしようかなぁ、何が食べたい?」
「俺あれ、出し巻き卵と味噌汁、最近和食食ってなかったんだよな。」
「フフッ、いいよ、私出し巻き卵得意だし、他には?」
「そうだなぁ、牛丼とか。」
「えー朝から牛丼?フフッ、絶対おかしいよそれ。」
「変かな?実家にいた時は朝からカレーとかよくあったし。」
「へぇー悠一郎君のお母さんって料理上手?」
「どうだろう、普通だと思うけど、恵理程じゃないよ。」
「えーもぉーそんな褒めても何も出ないよ。」
奈々には悪いと思いつつも、やっぱり悠一郎といるのは楽しい。
でも、今日くらいいいよね、少しくらい幸せになっても。
悠一郎と話している内に、徐々にそんな風に思い始める恵理。
奈々への罪悪感が薄くなっていく。
これもお酒に酔っているせいなのかもしれない。
ズルイ女かもしれないけれど、そういう事にしておきたい。