女子大生 成宮恵理-13
「あーぁ、ホントに台風直撃みたいだな。」
テレビを点けた悠一郎が気象ニュース番組を見ながらそう呟いた。
アナウンサーがなるべく外には出歩かないようにと呼びかけている。
「どうすっかなぁ、なぁ恵理、俺どうしたらいい?」
「そんな事言われても……。」
「ほらこのニュース見ろよ、これ外出たら危ないよマジで、だろ?」
「うん、そうだけど。」
ソファに座った二人の間隔は映画を観ていた時よりもずっと近くなって、今では肩が触れ合っている。
徐々に近づいてきたのは悠一郎の方。しかしだからと言って恵理は座る位置を変えたりもっと離れてよ≠ニいうような事も言わなかった。
「なぁ恵理、頼みがあるんだけど。」
「……なに?」
「今夜ここに泊まらせてくれないか?」
案の定。
時計が12時を回ったあたりから、もしかしたらそう言われるんじゃないかと思っていた恵理。
「駄目か?」
「えー……」
本来ならすぐにでも断るべきなのだろうけど、今の恵理にはハッキリとそれを告げる事ができない。
いけない事と分かっていても、迷いが出てしまう。
悠一郎の隣が心地良すぎて、離れてほしくないと思ってしまう自分がいる。
「明日になったら帰るからさ。」
「当たり前でしょそんなの。」
「なぁ頼むよ恵理、この雨で帰るのはさすがにキツイわ。」
それはそうだと思う。でも、恵理にはどうしてもある事が引っ掛かってしまうのだ。
「でも奈々が……奈々が嫌がると思うし。」
罪悪感を感じながら、言わないといけないと思ってその名前を出した恵理。
これ以上は奈々に悪い。
でも奈々の名前を出した途端に、今いる悠一郎と2人きりの世界が終わってしまったようで悲しくなる。
「え?奈々?奈々は別に大丈夫だって。」
恵理がそんな心境で奈々の名前を出したにも関わらず、悠一郎の返事は意外に軽いものだった。
「大丈夫な訳ないじゃん。」
「だから恵理ならよく3人で遊んだ仲なんだし大丈夫だって言ったろ?奈々も気にしないって。」
「それは前までの話でしょ。今の悠一郎君は……奈々の彼氏なんだし……」
「まぁそうだけどさ。」
「とりあえず連絡しなよ。」
「連絡?連絡ねぇ……」
「しないと駄目、絶対。」
「そうかなぁ、いちいち連絡なんてしなくても良いと思うけどな。」
「絶対駄目、悠一郎君が良くても私が嫌なの。」
「……はぁ、分かったよ。」
気が進まないのか、そう言って渋々携帯を取り出す悠一郎。
恵理にはどうして悠一郎が奈々に連絡したがらないのかが分からなかった。
悠一郎はなんだかとても面倒くさそうに携帯を触っている。
「じゃあちょっと電話してくるわ。」
「うん。」
悠一郎がソファから立ち、部屋を出ていく。
すると否応無しに恵理の隣に寂しさが広がる。
もしかして電話が終わったらやっぱり帰るわ≠ニ言われるかもしれない。
いや、きっとそうに違いない。
普通に考えれば、いくら台風の日といっても恋人でもない人の部屋に泊まるなんてありえないのだから。
嵐の中走って帰って、後日大学であの日マジで大変だったんだぞぉ!≠ニ笑いながら話す悠一郎の顔が想像できる。
しかし一方で悠一郎が帰った後、とても耐えられそうにない程の寂しさが訪れる事を考えると、心が潰れそうになる。
きっと悠一郎が帰った後、恵理はベッドで大泣きするだろう。
そして寂しいよ、寂しいよ、という言葉で頭の中が埋め尽くされるんだ。
しかも悠一郎と2人きりで過ごした後だからこそ、その苦しさはいつも以上のものになるのだろう。
そう考えると、奈々に電話する事を強く要望したのは恵理自身だが、悠一郎が居なくなってしまう事が怖くて怖くて堪らなかった。
ソファの上で体育座りをして、丸まるように額を膝につける恵理。
今でも油断したら涙が出てきてしまいそう。
「はぁ……」
すると部屋のドアが開く音。
恵理が顔を上げると悠一郎が何食わぬ顔でソファの隣に戻ってきた。
「奈々電話でないわ。たぶんもう寝てるんだと思う。」
「そう……なんだ。」
ホッとしたような、でもなんだか複雑な気持ち。
「じゃあどうするの?」
「どうするって言っても電話でないから仕方ないよな。いいよ、明日電話しておくから、な?それでいいだろ?」