女子大生 成宮恵理-12
「で、その相手とは上手くいってるのか?」
恵理はそれに対して少しの間考える素振りをした後、俯き加減で首を横に振った。
「え、そうなの、なんで?」
「なんでって言われても……」
「振られたのか?」
恵理はどうして悠一郎がこんなにも自分の恋愛話に執着してくるのかが分からなかった。
でも、もうどうやったって悠一郎はこの話題を止めてくれないようだし、恵理は仕方なくそれに付き合う事にした。
「そういう訳じゃないけど……」
「じゃあなんで上手くいってないんだよ。」
「それは……その……相手の人に彼女ができたみたいで……だから」
「え?へぇ……あぁそうかぁ……ふーん……それ最近の話?」
「うん、まぁ割と最近かな……うん。」
「そうなのかぁ……。」
恵理が失恋した事を知って申し訳ないと思ったのか、悠一郎の表情が沈む。
部屋の中が一瞬重苦しい雰囲気になった。
「そうかぁ、悪かったななんか。」
「べ、別にいいけど、そんなあれだし……。」
「ていうか恵理それで最近元気なかったのかぁ、俺ずっと気になってたからさ。」
また悠一郎の口から出た、意外な言葉。
ずっと気になってたから
そんな事を言われてしまうと、胸の奥から熱いものが込み上げてきて泣きそうになる。
お酒が入っているからというのもあるのかもしれないが、感情を押さえつけるための心の壁が低くなってきている。
たとえ上辺だけの言葉だったとしても、嬉しくてたまらなくなっている自分がいる。
「なんか、今日の悠一郎君変だよ?」
「そうかぁ?どこが?」
「なんか、やたらと優しいし。」
「俺はいつも優しいだろ。」
「はいはい。」
気が付けば、2人で何缶ものお酒を空けていた。
恵理にとってはこんなにも多くのアルコールを摂取したのは初めての事。
普段は絶対こんなに飲めないのに、今日はなんだか不思議と飲めてしまう。
それは悠一郎とソファでまったり話しているのが凄く心地良かったからなのかもしれない。
少しずつ口に含んで飲んでいく。スーッと身体にアルコールが入っていく感覚が気持ちいい。気持ち良いから止められなくなって、どんどん飲んじゃう。
「悠一郎君、酔っ払ってるでしょ?」
「いや酔っ払ってるのは恵理の方だろ。ていうか結構飲んだな。」
「うん、なんか今日は飲めちゃう。私お酒あんまり飲めないはずなんだけど。」
「良い事じゃん、ほらもっと飲みたければまだあるぞ。今日は酔い潰れても俺が介抱してやるからさ。」
「えー嫌だよそんなの、なんか怖いし。」
「はぁ?俺信用ないの?」
「うん、ない、全くない。」
「ひっでぇなぁ。」
2人でそんな会話をしながらヘラヘラ笑ってる。2人とも酔っ払ってるんだ。でも楽しい。
ふと恵理が時計に目を向けるともう夜中の12時を回っていた。
もう帰ってもらわないといけない時間だ。
でもなんとなく今はそれを言いたくなかった。
悠一郎と過ごすこの時間が凄く楽しくて、ずっとこの時間が続けばいいのになんて、いけない事を思ってしまう。
駄目、一度リセットしないと。
「私、水持ってくるね。悠一郎君も飲む?」
「おぉ、頼むわ。」
そう言って恵理がソファから立とうとする。
しかし立ち上がろうとした瞬間、恵理の身体はよろめいて、倒れそうになった。
「おっと!大丈夫か?」
悠一郎が咄嗟に両手を出して恵理の身体を支える。
「キャッ!」
故意ではないが、悠一郎に抱きしめられるような形になってしまった。
「お前やっぱり酔っ払ってるじゃん。」
「だ、大丈夫大丈夫、ちょっとクラっとしただけだから。」
と言いながら、悠一郎に抱きしめられて異常にドキドキしてしまっている恵理。
胸が爆発しそうなくらい高鳴ってる。
「ね、ねぇ、もう大丈夫だから。」
そう言って恵理は悠一郎の手から離れようとするが、そこでまたよろめいてしまう。
「おいおい無理するな、転んだら怪我するぞ。水は俺が持ってきてやるから座ってろって。」
「うん……ごめん。」
膝に力が入らない。どうやら相当にアルコールが回ってしまっているらしい。
でも気分が悪いとか、体調が悪くなっている感じはしなかった。
ただ頭の中がフワフワしていて、気持ちが良い状態が続いている感じ。
「ほら、水。」
「ありがと。」
悠一郎が持ってきてくれた水が、アルコールで火照った恵理の身体を少しだけ冷ましてくれる。
「ふぅ、やっぱりちょっと飲み過ぎだったかな。」
「気分悪いのか?」
「ううん、そこまでじゃないけど。」
悠一郎がソファに戻ってきて、また恵理の隣に座る。
そうすると恵理の心はホッと安心する。何ともいえない安らかな気持ち。
悠一郎と奈々が付き合い始めてから、ずっと心の中の何かがスッポリ抜け落ちてしまったようで不安だった。
でもこうやって悠一郎がいっしょに居てくれるだけで、恵理の心は温かいもので満たされていく。
これが恵理にとっての幸せなんだ。
悠一郎がいてくれるだけで幸せ。
これが恵理の本心だと、恵理は今、その自分自身の気持ちを認めざるを得なかった。
……ずっと、悠一郎君と一緒にいたい……
もし悠一郎がいなくなったらと思うと、怖く怖くて堪らなかった。