女子大生 成宮恵理-11
「悠一郎君って高校の時女の子にモテたでしょ?」
「さぁ、どうだろうなぁ、そんなにモテてないと思うぞ俺は。」
「絶対ウソ。」
「なんでそう思うんだよ、そんなに俺って魅力的か?」
「そ、そういう訳じゃないけど!……なんとなく。」
悠一郎の返しにしまった≠ニ思い恥ずかしそうに下を向く恵理。
心の中を見透かされたくない。
「それより恵理はどうなんだよ、彼氏作らないのか?」
「私?私は……」
「恵理なら彼氏の一人や二人、すぐにでも作ろうと思えば作れるだろ?」
「そんな物みたいに簡単に作れる訳ないでしょ。」
「だって恵理って何気に男からモテるだろ?」
「はぁ?モテないよ全く。どうしてそう思うの?フフッ、そんなに私って魅力的?」
少し悪戯っぽく笑みを浮かべながら、先ほどの悠一郎と同じような返しをしてみせた恵理。
しかしそれに対する悠一郎の返事は意外なものだった。
「うん、恵理は普通に可愛いし。」
……えっ?……
男の子に面と向かって可愛いだなんて今まで殆ど言われた事がなかった恵理はその言葉に大きく動揺した。
しかもそれを密かに想いを寄せる悠一郎から言われてしまった訳で、その動揺は隠せない。
胸がキュンと苦しくなって顔が一気にカァっと熱くなる。
でもお酒で元々赤くなってたから悠一郎はそれに気付かなかったかもしれない。
「ハハッ、もー……悠一郎君ってどの女の子にもそういう事言ってるんでしょ?なんか言葉が軽いもん、あーヤダヤダ、そうやって女心を弄ぶんだ。」
「いやいやそんな事ないし、本当だって。恵理は可愛いって俺の周りにいる男は皆言ってるよ。俺もそう思うし。」
恵理が赤くなった顔を手で扇ぎながら冗談っぽく済ませようとしたのに、悠一郎は真顔で言ってくるから困る。
「ていうか本当に彼氏作るつもりないのか?」
……どうして悠一郎君が私にそんな事聞いてくるのよ!……
内心涙目で思いながらも恵理はそれに無言で耐える。
「恵理だってさぁ、彼氏欲しい時くらいあるんだろ?」
「それは……まぁ……」
「だろ?だったら早く作った方が良いって。恋人のいない大学生活なんて後から振り返ってみても悲しいだけだぞ。」
何言ってるのこの人。なんで上から目線なの?
失恋の苦しみとその相手への怒りが入り交ざって心の中がグシャグシャになる。
「……悠一郎君には関係ないじゃん。」
でも今の恵理には怒り口調でそんな言葉を返すのが精一杯。
「俺は心配しているんだよ、恵理の事を。」
心配なんてしてほしくない。もう私の事なんて忘れちゃえばいいのに。
怒りの次は自暴自棄になる。
何気ない悠一郎の言葉が恵理の心を掻き乱していた。
「恵理さ、今好きな奴とか気になる奴とかいないの?」
それを聞いて恵理は少し黙り込んだ後、じっと悠一郎の顔を見つめた。
いや、見つめるというより睨み付けると言った方がいいのかもしれない。
「な、なんだよ。」
睨まれて少し顔を怯ませる悠一郎。
やはり悠一郎には恵理に睨まれる理由が分からないらしい。
恵理はそれから目線を外して向き直ると、半分程残っていた缶チューハイをグビグビと一気に飲み干した。
そしてテーブルに空になった缶を置くと、小さく口を開いてこう呟いた。
「……いるよ。」
「えっ!マジで?誰?」
悠一郎はかなり驚いた様子でそう聞き返した。
「……悠一郎君には関係ない。」
「おいおいそんな事言うなよ〜俺達の仲だろ?で、誰なんだよ、それくらい教えてくれてもいいだろ、なぁって、なぁ。」
悠一郎は笑いながら擦り寄ってきて肘でツンツンと恵理の身体をつつきながら冷やかすように聞いてくる。
悠一郎に触れられて一瞬ドキッとしながらも、恵理はそんな悠一郎を撥ね(はね)返す。
「もうっ!悠一郎君には関係ないって言ってるじゃない!」
「わ、分かった分かった、そんなに怒るなって。恵理って酔うと怒りやすくなるんだっけ?」
「悠一郎君が執拗いからよ。」
こうやって強く突き返さないと悠一郎は無邪気に恵理の心を掻き乱すから、恵理はこうするしかないのだ。
しかしそれでも悠一郎はなかなかその話題を終わらせてはくれなかった。