あたしの想い人-8
灰皿の横に置かれたライターがふと目に入る。
あたしと塁の御用達のラブホ『モナリザ』のロゴが入ったライター。
あたしはそれを手に取ると、ピアニッシモのボックスに押し込んだ。
塁とセフレになってからは、彼のアパートには上がらせてもらえなくなった。
だから塁に会えるのは、時間制限付きのラブホテルだけ。
塁と身体を重ねた軌跡として、毎度ホテルのライターを持ち帰ってしまう。
そのライターの数が増えていけば行くほど、安心が得られるのか不安になるだけなのか、正直自分でもわからなかった。
「風呂入るか」
コーヒーを飲み干した塁は、プツッとテレビを消してからあたしの方を見た。
塁は、ヤったらサッサと自分だけシャワーを浴びに行くような薄情な真似はせず、必ずあたしをお風呂に誘ってくれる。
これだけは恋人同士だった頃からの名残である。
無意識のうちにそうしてるって言われたらそれまでだけど、付き合っていた頃と同じように接してくれると、わずかな期待をしてしまうのだ。
あたし達は恋人同士に戻れるんじゃないかって。