あたしの想い人-5
不意に虚しくなったのは、やはり塁があたしの恋人じゃないからだろうか。
チラッと塁の方を向くと、彼は片手にマグカップ、もう片手に煙草を持ちながらテレビをぼんやり眺めていた。
あたしと塁は一年くらい前までは、ちゃんとした恋人同士だった。
あたしが大学に入り、カフェのアルバイトを始めたときに、教育係としていろいろ教えてくれたのが、塁だった。
やや濃いめの眉に、強い意志のこもる瞳がやけに印象的で、笑うと口の片方だけが意地悪そうにつり上がる、近寄りがたそうな男だった。
でも話してみれば、顔に似合わず面白いことをたくさん言ってあたしを笑わせてくれ、さり気なくあたしのミスもフォローしてくれる優しさもあったりで、あたしが塁を好きになるのにそう時間はかからなかった。
気付いたら生まれて初めて自分から告白していた。
作戦も駆け引きもしないまま、無鉄砲なだけの告白。
塁は“オレでよければ”なんて、なぜか笑いながら返事をくれた。
なんで笑っているのか訊ねると、“玲香ちゃん、すげーわかりやすかった”なんて言うから、よっぽどがっついていたのかと、恥ずかしくなったっけ。