あたしの想い人-10
「いいからいいから。
いねえの、いい男?」
「ああ、全然ダメ。期待外れもいいとこ。
地味で面白みのない人ばっかり」
あたしは咄嗟に文屋さんの顔を思い浮かべて顔をしかめた。
「だから、歓迎会の後にオレを呼び出してホテルに連れ込んだわけか」
塁は、クククとこらえるように笑いながらあたしを抱き寄せる。
「連れ込んだって人聞きの悪い言い方しないでよ」
むくれながらも、あたしは塁の身体に身を預けた。
とは言え、実は彼の言った通りである。
塁以外の男の人と話していると、無意識に塁と比較してしまうのか、無性にコイツが恋しくて仕方なくなる。
だからあたしは歓迎会の合間に塁に電話して、ここに誘ったのだ。
塁はあたしの身体を支えるが如くお腹に腕を回し、アップにした髪で露わになったうなじに唇を這わす。
そして独り言のように、
「そっかあ、お前が好きになれそうな奴はいないかあ」
とだけポツリと呟いた。
残念そうに呟いた塁にムカついて、キュッと下唇を噛み締め俯く。
しょうもない褒め言葉でおだてたりなんかしちゃって。
サッサとあたしに好きな人を作らせ、自分から離れていって欲しいとでも思っているのだろうか。
あたしの気持ちを知ってるくせに、わざと知らない振りをする、ズルい男。
――他に好きになれそうな人がいないから、こうやって苦しんでいるんじゃない。
思わずそう漏らしそうになったあたしは、お腹を包む塁の手をギュッとつねってやった。