〈晴らすべき闇〉-8
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「……あら、今の車は…?」
路肩に停めてあった景子達の乗る車の横を、黒いセダンが駆け抜けていった。
暗闇であっても、景子の動体視力は、その車の運転手が八代である事を捉えていた。
こんな時間に、こんな港に来ている事に違和感を覚えたのは景子だけではない。それは春奈も同じだった。
「喜多川先輩……」
「行きましょう、春奈さん」
二人を乗せた車は力強く発進し、港を一望出来る坂道を勢いよく下っていく。
道路の両側は高い鉄柵に被われ始め、その向こうには降ろされた原木や、それを運ぶ重機、そしてライトに照らされた巨大な貨物船が見えた。
そして鉄柵の繋ぎ目に巨大な金網を施された扉があり、そのすぐ側に、小さな事務所が建っていた。
「……ここよね」
春奈は涙を腕でグイッと拭い、何かを確信したように車から降りると、白い明かりの漏れている事務所へと歩いていった。
「警察よ。開けなさい」
春奈がドンドンとドアを叩くと、うだつのあがらない男がドアを開けた。
白い光は開放され、暗闇に佇む二人の刑事を照らし出す。
幼さの残る刑事が胸元から警察手帳を取り出し、その男の目の前に突き出すと、その顔は少し崩れた。
『……たちが悪いな。偽造品かあ?』
春奈がムッとした膨れっ面をすると、見兼ねた景子が自分の警察手帳を取り出して、その男に見せた。
「ちょっと入っていいかしら?」
景子は応対した男を軽く押し退けると、ズカズカと事務所の中へと入っていった。
もちろん、春奈はすぐ後ろについていっている。
傲慢ともとれる態度の二人の刑事の瞳には、突然入り込んできた来訪者に戸惑う男達の姿と、デスクに座ったまま見つめてくる、金髪の男の姿が映っていた。
『これはこれは……他人の迷惑も考えない世間知らずな刑事さんが二人も……一体、何の用ですかな?』
睨むとも笑うともつかない表情は、初対面なはずの二人の刑事にも、“あの事件”との関連性を連想させるに充分だった……景子の拳は緊張に強張り、春奈は悪寒に身体を震わせていた……。
「……最近、複数の女性が失踪してるんです。不審な人物を見かけてないか、聞き取りして回ってるんですけど……」
『……君、なに泣いてんの?』
春奈の質問に対し、金髪の男は茶化すように遮ると、口元を歪めた。
確かに、さっき泣いた瞳の赤みは引けてなかったのだが、それは明らかに春奈を見下した、嘗めた態度であった。