〈晴らすべき闇〉-3
「……ご、ごめんなさい……私……どうすればいいか…わ…分からなくなって……」
アヒル口を尖らせて俯いていた春奈は、両手で顔を覆って泣き出してしまった。美津紀が消えたのは偶然ではなく、明らかに狙われての犯行なのだと景子は思った。
そして、春奈も気付いたからこそ、苦悩を景子に告白したのだ。
「私が…私が助けなきゃいけないんです……逃げたくないんです……でも………」
景子はハザードランプを点けて車を停めた。
そこは、あと少しで港が見える道。
姉妹が消えた、あの忌まわしき港へと続く道だった……。
「……き…喜多川先輩…?」
景子は自分と春奈のシートベルトを外すと、優しく肩を抱いて引き寄せ、その泣き顔を胸に包んだ。
それは春奈には予想外の出来事であったが、その逞しさすら感じさせる腕に抗う様子すら見せずに、されるがままに身を委ねた。
「……よく打ち明けてくれたわ……辛かったわよね?」
景子は右手で春奈の頭部を包み込み、頬を当ててギュッと抱きしめた。
その力強さに、温かさに、春奈は甘えるように泣き続け、その涙は景子のYシャツに浸みていった。
包まれ、守られている感覚は、麻里子に甘えていた幼いあの頃の思い出と重なり、実の姉のような気持ちさえ生まれてくる。
そしてそれは、景子も実の妹のような気持ちを、春奈に抱き始めていた。
……景子には、二人の妹が居る……いや、正確には“居た”の方が正しい。
三つ下の美穂と、八つ下の優愛(ゆあ)の三姉妹だった。
……美穂という次女は、15才の時にレイプ事件に遭い、それを苦に自殺していた。
その時、景子は18歳。
三女の優愛は10才であった。
成績優秀な姉に負けまいと塾通いしていた美穂は、その帰宅途中に見知らぬ男達に拉致され、山中で集団から暴行を受けた。
取り囲むように止められた車のヘッドライトに照らされながらの輪姦……しかもその様子はふざけ半分に撮影された……細切れに、下手くそに編集された映像は、翌日にはパソコンの映像サイトに投稿されていた。
その手の込んだ編集は、ヤラセと見せ掛け、直ぐに削除されない為の悪質な悪戯だった……。
真偽の定かではないレイプの映像を興味本位の不特定多数に観られ、そして被害を届け出た警察の対応も、配慮に欠けた質問の応酬でしか無かった……。