〈晴らすべき闇〉-11
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沈んだ陽はまた昇り、光は警察署内を照らしている。
節操の無い強い陽射しは少しは弱まっていても、まだまだ眩いまでの光は、自販機の側に立つ八代を点していた。
紙コップに注がれたコーヒーを口に運び、軽く溜め息を吐く。
美味いのか不味いのか判らぬ顔は、相変わらずのいつも通りだ。
「八代さん、おはよう。一人でコーヒー飲んで寂しくない?」
近寄り難い雰囲気を醸し出している八代に声を掛けたのは、にこやかな表情をした景子だった。
麻里子の弔いのつもりか、春奈と同じく黒いスーツを纏っていた。
この美しい女性に声を掛けられたというのに、八代の表情に変化は見られない。その朴念仁(ぼくねんじん)ぶりもまた、相変わらずだ。
「私、ブラックって苦手なのよね。やっぱりミルクとか入れないとさ」
景子も自販機からコーヒーを買い、両手で包み込むように紙コップを持つと、静かに啜った。
その表情は、まだ笑みを浮かべたままだ。
「……八代さんて、結構モテるのね」
『……ん?』
唐突な景子の言葉に、少しだけ八代の表情に変化が見られた。
と言っても、眉毛が少し上下しただけなのだが。
「ちょっと前には麻里子さんと一緒だったでしょ?それにこの間は瑠璃子さんと二人きりで……意外に面食いなのね?」
『………』
八代はコーヒーを啜ると、押し黙るように仏頂面のまま固まっていた……いつも通りと言えばそうだが、何か不都合な事を言われたとも見える……。
『……美津紀さんが消えたのは知ってたか?あの“爺様”が面子に拘って捜査本部を立ち上げてくれないって、麻里子さんに泣きつかれてな……』
意外にも、八代は事件の事を自ら語り始めた。
数年前の夏帆失踪と、銭森姉妹の失踪事件の事までも。
そして事件解決に努力した自分は、警視総監たる祖父や上層部に疎まれ、数年前には謹慎処分まで食らった事までも景子に伝えた。
それを聞けば、八代は必死に今の失踪事件の解決の為に奔走しているように思えたが、やはり景子の頭の中から違和感は消えなかった。