黒い鷹-1
南の大陸の最南端クラスタに巨大な要塞が出来た。
南の海に広がる『黒海』から溢れ出る強力な魔物から、大陸を守る為に南の大陸の国々が出資しあって作ったらしい。
そこの責任者に抜擢されたのはカイザス国の第3王子デレクシス。
彼は精霊人(せいれいびと)で風の精霊と契約している、南の大陸王族唯一の魔法使い。
魔物相手の要塞に配置するには魔法使いであり、いつ死んでも困らない世間知らずな第3王子なら適任だ。
……だと思っていたのだが……。
「ねえ、君!人間って美味しいのかい?」
翼をはためかせて空中を滑空する派手派手な鷲の背中の上で、茶髪に赤いメッシュの男が叫んだ。
叫ばれているのはクチバシに人間をくわえた大烏。
『美味しいわよぉ。特にこんなクールな殿方は大好物だわぁ』
クチバシを開ける事なく答えた大烏は、大きく翼を打ち付けてスピードをあげた。
「ふざけんなっ!離せ!馬鹿烏!!」
クチバシにくわえられた男はジタバタもがきながら大烏に文句を言った。
『あはん?離してい〜い?』
大烏の言葉に男は眼下に広がる広大な密林を眺めた。
『アタシはそれでも良いわよぉ〜?ぐちゃぐちゃに潰れても味は変わんないしぃ?』
大烏はゆっくりとクチバシを動かし、男を落とそうとした。
男は慌ててクチバシにしがみつき、首を横に振る。
「え?!味は変わらないのかい?!」
人が死にそうな目にあっているというのに、派手派手コンビは全然構わずに大烏に質問した。
大烏は追いついてきた鷲に目をパチクリさせる。
『え?そうねぇ……でも、見た目が良い方が良いからやっぱりぐちゃぐちゃよりは普通の方が……』
「ああ、やはりそうだよね。食べ物はぐちゃぐちゃなのより美しく飾り付けられている方が良いよね」
派手な男はにこっと笑い、大烏は気を削がれてスピードを落とした。
「ねえ、君は人間の言葉が話せるよね?もっと話を聞かせてくれないかい?」
いったいこの派手な男は何を考えているのか……大烏にくわえられた男はうんざりして脱力する。
『見返りは?この人間食べて良い?』
「あはは、それはダメだよ。彼は私の大事な右腕なんだ。彼を食べる気なら容赦しないよ?」
ニコッと笑顔を見せた派手男だったが、その目は全く笑っていなかった。