黒い鷹-8
「え?何か言ったかい?」
「別に」
出会った時から何もかも知っていて、こんなサプライズを2年越しで計画するとは……まんまとハメられ悔しいやら嬉しいやら……。
「それにしても、良かったのかい?」
デレクシスは憮然とした顔のスランバートを覗き見る。
「何が?」
「別れて暮らす事。せっかく私が2人を誘ったのに」
理想郷作りに協力してくれ、と頼んだが2人は断った。
子育てをするのにクラスタは殺伐とし過ぎているし、ゼインには大事な人生計画があるから……と。
スランバートはゼイン達に賛成し、別れて暮らす事を選択した。
「あの2人に任せときゃテオドアは立派に育つさ」
変に自分は絡まない方が良い。
「ゼインは魔物だから理想郷作りにはうってつけだったのになあ」
「……ホントの目的はそっちかよ……」
「まあ、君が残ってくれたんだから良いか」
デレクシスの言葉を聞いたスランバートはふっと気づく。
(そういや、俺が出ていく可能性のがデカかったか……)
普通ならスランバートもゼイン達に着いて行くと考えるだろう。
それを承知でデレクシスはスランバートとゼイン達を合わせたのだ。
思った以上に男気のあるデレクシスに、スランバートはハッと息を吐いた。
「……仕送りする約束しちまったしな……給料上げろよ?」
「?」
「あんたの右腕になってやらぁ。それで貸し借り無しだ」
デレクシスのおかげでゼインとカリオペに再会でき、自分の息子の存在も知った。
一生懸けて恩を返す……そういう事だ。
「スランバート君っ!!」
「バートンだっつうの」
「ああ、バートン。改めて宜しくだよっ嬉しいなぁ〜最終的に使おうと思っていたテオドアの赤ちゃん時代の秘蔵写真、後であげるよ♪」
「てめっまだ隠し玉持ってたのか?!」
「当たり前さ。どうしても君は欲しいからね」
「……俺ぁチビ以外の男は抱きたくねえんだがな」
「嫌だなあ〜私にそっちの趣味は無いよ?でも、君がどうしてもって言うなら……」
「抱く気はねえって」
そんな言い合いをしながら砦に戻る2人の背中を、朝日が照らす。
不意に足を止めたスランバートは、西に顔を向けた。
段々と明るくなっていく空が……妙に新鮮に見えたのだった。
ー黒い鷹・完ー