黒い鷹-7
まじまじと子供を見るスランバートの目から、ひと粒の滴が溢れ落ちた。
「ス、スラン?!」
「え」
「ちょっとぉ、何泣いてんのよぉ?!」
「へ?えぇ?!」
ぎょっとするカリオペとゼインの言葉に、スランバートは慌てて顔に手をやる。
全然自覚無く、自然と溢れた涙に本人が1番驚いていた。
「あ……あれ?」
戸惑うスランバートに、カリオペとゼインは顔を見合わせて苦笑する。
そして2人はスランバートに近づき、ちょいっと背伸びをして両側から唇で涙を拭ってやる。
「あんたのそういう所が魅力的でムカつくのよ」
「あんたのそういう所が魅力的で腹が立つんだ」
同時に全く同じ事を言った2人は、同時にスランバートの頬にキスをした。
ゼインが抱いていた子供は、両親を下から見比べてスランバートに目をやる。
くしくも目が合ってしまい、スランバートはピキッと固まった。
そんなスランバートに、子供はにこぉっと笑顔を向ける。
両親がキスする人ならきっと良い人。
単純思考の子供は両手を出してスランバートに抱っこをねだる。
「ハハッ……お前ら馬鹿だな……」
こんな男の子供なんか産まなきゃ良いのに。
そうは思うが、産んでくれて……育ててくれて心底嬉しい。
まさか自分の子供がこんなに愛しく感じるなど思っていなかった。
暗殺者として沢山の命を奪ってきた自分には過ぎた幸せだ。
だが……泣ける程の幸せを感じたのは産まれて初めて……スランバートは大きく手を広げて、3人まとめてギュウッと抱きしめた。
1週間程、砦に滞在した3人は魔物化したゼインに乗って西へと旅立った。
西の方に土地を買ってパン屋を作ったらしい。
ファンで出産後、子供……テオドアが魔物化したゼインでの旅に耐えられるまで城に世話になり、その間ゼインはファンと引越し先の土地を行き来してパン屋設立。
準備万端、テオドアも大きくなった所で引越しとなったのだ。
2人とデレクシスの関係は、護衛と雇い主。
護衛中、スランバートの話を聞いていたしテオドアの父親が彼だという事も知っていたのだ。
「……くわせもん……」
小さくなる魔物ゼインを見送りながらスランバートはポツリと呟く。