黒い鷹-2
この時、大烏は自分と派手な男の力量の差に気づいた。
馬鹿なのかと思っていたが、余裕があるだけなのだ。
もし、彼が本気を出したら言葉通り容赦無く殺される。
『こ……この人間は返す。話もしないっ』
大烏は慌ててくわえていた男を離し、ぐるんと旋回して空に消えていった。
「ああ……行ってしまった。残念だなあ」
「わわわわっ」
大烏に逃げられて肩を落とした派手男だったが、空中に放り出された方はたまったもんじゃない。
両手を広げて何とか落下のスピードは落としたものの、地面は急速に近づいてくる。
「!!」
その地面が派手な色に遮られた。
気がつくと派手な羽毛にやんわりと受け止められ、ふわりと空を飛んでいた。
「ナ〜イスキャッチ」
『クエッ』
派手派手コンビは呑気に笑い合い、受け止められた男は盛大に溜め息をつく。
「死を覚悟する前に助けて下さいよ」
「何を言ってるんだい?君は死んでいる筈だろう?スランバート」
「うっせえ!バートンだっつうの!軽薄王子が!!」
死にかけた男スランバートは、軽薄王子デレクシスに吠えるのだった。
事の起こりは2年程前……。
―――――――――――
クラスタに要塞を作るという話は南の大陸全土に広がった。
しかし、そこの要員を確保するのに非常に苦労していた。
何せ強力な魔物が闊歩する最南端クラスタだ。
自殺願望がなければ好んで行く筈が無い。
だが、そういう所はスランバートにとってはとても都合の良い場所だった。
南の大陸で1、2を争う暗殺集団ログとシグナー。
そのログのエリート『黒い鷹』スランバートといえば超がつく有名人だ。
世間一般では死んだ事になっているが、暗殺者が偽装で死を装うのは良くある事。
だから余り人目の付かない仕事がしたかった。
冒険者も良いがどこか一定した場所で働きたいと思っていたスランバートは、クラスタ要員募集に飛び付いた。
簡単な面接だけで採用となり、同じく採用となった何十人かの人々とまとめてクラスタに送られた。
着いた場所には、まだ要塞と呼べる代物は無く、砦が横一列に点在している状態だった。
「まだ要塞は出来ていないんだ。これからこの砦を壁で繋げていく……そこから協力頼むよ」
妙に明るい声で説明したのは、茶髪に赤いメッシュの入った20代半ばの妙に派手な男。