アンバランス-4
何も残さず消えてくれれば良いのに、ゼインの心にちゃっかり居座った上に自分には分身を残して行くなど……どこまでも自分勝手な男だ。
「……でも、産むだろ……?」
ゼインはカリーの手を握った手にキュッと力を入れた。
カリーは少し間を開けた後、コクンと頷く。
「……お前も、スランが好きだろ……?」
今度はたっぷりと間を開けて、ほんの少し頷いた。
だから嫌いなのだ……ゼインを愛しているのに、あの男も好きだから……あの黒い瞳と優しいキスが忘れられないから……大嫌いだ。
「俺もスランが好きだ……勿論、カリーが1番好き。一生側に居たいのはお前だけ。だけど……アイツは……忘れられねぇんだ……」
そこも嫌いな理由のひとつ……自分だけじゃなくゼインもスランが好きだから……益々、大嫌い。
言ってみれば、カリーとゼインは相思相愛の恋敵。
だからスランが消えてくれて、寂しいが内心ホッとしていた……だというのに……よりによって……。
「なあ?俺、スランの子供じゃなくても喜んだぜ?そりゃ、びっくりしたけどさ……だって、お前の子供じゃん?お前の子供なら可愛いに決まってる」
ゼインはカリーの手を引いて、ギュッと彼女を抱きしめた。
「デレクをクラスタまで送ったら、貰った報酬で小さなパン屋を作ろう?」
「パン屋ぁ?」
「俺、パン焼くの上手いぜ?で、金貯めて3人で結婚式あげるんだ」
「なぁにぃ?それ?」
カリーの目から涙が止まり、クスクス笑ってゼインに腕を回す。
「俺の人生計画。初めて立ててみた」
奴隷だったゼインは自分で自分の人生を決める事が出来なかった。
奴隷から逃げても生きる為には冒険者になるしか無く、その日暮らしの生活で人生計画など……ましてや夢など見た事も無かった。
そのゼインが初めて立てた人生計画には、カリーと産まれてくる子供が必要不可欠……ゼインにとっては壮大な夢。
「付き合ってくれるだろ?」
ゼインの懇願がこもった囁き声に、カリーは回した腕に力を込める。
「ん」
小さな返事にゼインの顔は満面の笑顔になる。
愛しているの言葉なんかじゃ足りないから、2人は溢れる気持ちをしっかりと込めて、誓いの口づけを交わしたのだった。
ーアンバランス・完ー