学園の風景-2
朝のトイレでは時間ぎりぎりまで頑張ってみた。
いつもは姉より早く家を出ることが多いが今日は姉が先に出て行った。
それほど麻衣は切羽詰まっていたのである。
身体は重だるく、下腹部にイヤなものが詰まっている不快感がたまらない。
なにより、下腹の張りが苦しさを伴ってきていたのである。
しかし結局今日も排便できないまま登校してきた。
昼食もほとんど食べることができなかった。
そして今に至るのだが、少し熱っぽいことも手伝い、ここへきて重だるくて動くことも辛くなってきたのだ。
とても体育などできるような状態ではなかった。
その時、突然胃から込み上げてくるものを感じた。
青い顔をして急に席を立ち、教室から出て行く麻衣に後ろから声がかかった。
「麻衣、大丈夫〜?」
しかし、それに答えることなく麻衣は廊下を走りトイレへ駆け込んだ。
わき目もふらず洋式便座へ直行すると、便器に顔をうずめるようにして咳き込む。
しかし吐き気はするものの胃から内容物は出ず、唾を吐いただけで終わった。
朝食も昼食もほとんど食べていない空腹の胃なのだから、当然といえば当然であった。
麻衣は水洗レバーを引き、あえて「大」用の大水量を流した。
流す物もほとんどなかったが、そうすれば少しでも身体の症状が和らぐおまじないのように思えたからだ。
水洗タンクがバシャバシャ音を立てる中、後ろから声を掛けられたような気がした。
「麻衣?大丈夫?」
麻衣は、慌てていたあまり個室の扉を閉める余裕もなく便器に突っ伏したことを思い出した。
はっとして振り返ると、一人の女子生徒が立っていた。
色白の麻衣と違い、小麦色の肌を持つその女子生徒の名は千帆といった。
艶やかな長い黒髪が醸し出す妖艶な雰囲気は、大人びて見えた。
(よりによって、最も見られたくない人物にこの場面を見られてしまった)
麻衣はそう思った。
麻衣と千帆は同じクラスの生徒だったが、ライバル関係にあった。
常にクラスの成績トップを争う関係で、成績はいつも拮抗していた。
どちらか1位になればどちらかが1位になれない。