THANK YOU!!-2
『もう、大丈夫?』
「うん。ありがとう、恵梨」
『いいえー。久々に声聞けて嬉しかったよ!』
しばらく世間話をしていた瑞稀は、恵梨の言葉に、私もだよと答えて軽く別れの挨拶をして電話を切る。
いつの間にか身体を起こしていたようで、もう一度ベッドに倒れこむ。壁時計を見ると、エンディが帰ってから1時間は経過していた。
眠気とだるさはもう既にどこかへ吹っ飛んでいた。
とりあえず、久しぶりに長話をして喉が乾いたのでベッドから起き上がってリビングに移動した。
キッチンに行くと、コンロに小さな鍋が置いてあった。
近くにメモも置いてあり、見ると達筆な字で『温めてから食べること』とメッセージが残されていた。
鍋の蓋を取ると、玉子がゆが姿をのぞかせた。
「わぁ・・!!」
冷めてはいるものの、とても美味しそう。丸二日。さらにその前からもあまり食べていなかったこともあり、ぐうっとお腹が鳴る。
少し水を足してコンロの火を点けて温めてから、今食べられる分だけお椀によそう。
ダイニングテーブルにお椀と水の入ったコップを置き、椅子に座って落ち着いてからゆっくりと食べ始める。
「しょっぱ・・」
塩の多さにに思わず顔を綻ばせる。そのまま食べ進めていて、ふと思い出す。
「そういえば・・一回だけ母さんに作ってもらったっけ・・」
思い出の中にある母のお粥と同じようなしょっぱさに覚えているものがある。
食べる手を止めて、懐かしくなってその時の思い出に浸った。
*****
「コホコホッ・・」
小学一年生の時。ゲームばかりしていて風邪をひきそうになかった瑞稀が、学校で流行していたインフルエンザにかかってしまった。それは三日で治ったのだが、その後風邪をひきだしてしまった。
今よりも仕事に打ち込んでいた叔父や、祖父母は家を開けていた。勿論、それには文句も何も無いし、インフルエンザの時には交代制で看病してくれた。
そんな時、その頃から病気がちだった母が看病をしてくれていた。
嫌な咳で目を覚ました瑞稀は、眠っているだろうと静かに部屋に入ってくる母の姿を見た。手にはお盆を持っている。
「・・みいちゃん。・・起きれる?」
「・・・・ママ・・うん」
母に支えられながら起き上がると、ベッドチェストにお盆が置かれた。そのお盆の上には湯気立つ玉子がゆ。
「・・・これ、ママが・・?」
「そうだよ。少しでも食べないと、良くならないからね」
「・・でも、ママ、料理苦手じゃ・・」
瑞稀の脳裏に浮かんだのは、よくキッチンで皿を割ったり、鍋を焦がしたり、食材を切っていて自分も怪我したり、という母の姿。そんな母だから、いつも祖母や瑞稀が料理をしている。それが伝わった母は、苦笑いを浮かべた。事実、今思うとこれを作るのにも色々とキッチンの中をメチャクチャにしたのだろうなと瑞稀は笑ってしまう。
この頃の瑞稀にとっては、笑い事ではないのだけれど。
スプーンでお粥を一掬いして、少し冷ますためにフーフーと息をかけて、母は言った。
「確かにママは料理苦手。でもね、みいちゃんの為なら頑張れるの。たとえキッチンがどうなろうとも、ね?」
そう最後は冗談ぽく笑った母は、スプーンを瑞稀の口元に差し出した。
瑞稀は母の言葉に理解が出来ずにただお粥を口の中に入れた。うん、やっぱり母は料理が苦手なんだ、しょっぱいなぁと心の中で思った。
またスプーンで一掬いして、と同じ動作を繰り返してなんとかお粥を食べ終わった頃に、言った。
「みいちゃん。ママはね、病気がちだけど、みいちゃんを想う気持ちがあるからこうして看病してって頑張れるんだよ。みいちゃんが支えなの。でもね、ママはみいちゃんの笑顔が特に支え。だから、早く元気になって笑って?」
「・・ママ・・」
「きっと、これから辛いこと、苦しいこと、いっぱいあると思う。でもね、忘れないで。これからママみたいにみいちゃんを想ってくれる人が出来るよ。だとしても、その人よりも、みいちゃんに何があっても、ママはアナタを心から愛してるわ。」
*****
「・・・・・」
不意に思い出した母の優しい記憶と、母からの言葉に瑞稀は涙を流した。
それは無意識なもので、止められるハズも無かった。
「・・・ありがとう、ママ・・」
あの日、答えられなかった呟きは、小さく漏れすぐに空気に解けた。