彼の名は-3
「玲香(れいか)は、わりと綺麗な顔してるから、県職員になるよりこちらの方が確実だわね」
親の欲目というやつなのか、母はいつもあたしの容姿に関してだけは褒めてくれる。
大きな瞳は自分でも気に入っているけれど、つり上がっているせいかキツく見られがちで、“怒ってる?”なんて訊かれることがたまにある。
あまり高くない鼻に、大きめの口は気に入らないけど、母からすれば、それもチャーミングに映るみたい。
だから、母は冗談めかして結婚相手を探してこいなんていうけれど、実はかなり本気なんじゃないかと思う。
あたしもあたしでそんな母にビビりつつも、かっこいい人と出会って職場恋愛もいいかもなんて、そんな不埒な考えを密かに持ちながら、4月から臨時職員として働くことにした。
……しかし。
社会人ってこんなに地味な人達の集まりだったんだろうか。
あたしが所属する総務部は、若い独身の男がたった二人だけで、あとは若くても既婚者とか、おっさん、おじいちゃんばかりが所属する地味な職場だった。
あ、女子に関しては若い娘も2、3人いるけど興味ないからここでは割愛。
たった二人の若い独身男だって、地味で陰湿そうな眼鏡の文屋さんと、食べることしか興味のなさそうな、目測90キロの大久保さんくらいしかいなかった。