あの時のアレ 〜side久留米〜-8
オレがそう言うと、芽衣子は目を潤ませて伏し目がちになった。
「……やっぱりあたしが来てうざがってんでしょ」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「茂もあたしのこと“うぜえ”って殴ってばかりだし、みんなあたしのことうざいんだよ」
芽衣子は、そう言うとポロリと涙をこぼした。
「……またアイツお前に手を上げてんのか?」
オレは芽衣子の言葉に思わず眉をひそめた。
以前、芽衣子に手を上げる茂が許せなくて、オレは茂をぶん殴ったことがある。
幸せにできないなら芽衣子をオレにくれと、そう言うつもりで茂に“芽衣子と別れろ”と迫ったのだ。
しかし、ちょうど仕事を終えて帰ってきた芽衣子がこの有り様を見て、真っ先に茂の元に駆け寄った。
そして、芽衣子はオレを責めた。
――これがあたし達なんだから、久留米くんは口出ししないで。
芽衣子のためによかれと思ってやったことでも、やはり彼女が惚れているのは茂だったのだ。
奪うも何も、芽衣子が茂を好きならばオレの出る幕はない。
この日以来、芽衣子が殴られてる事実を知りながらも、もはや何も言えなくなってしまった。
だから、せめてオレが殴ったことで茂が改心してくれることを祈ることしかできなかったはずだったのに……。