あの時のアレ 〜side久留米〜-6
芽衣子が泣きながらここにやってきた理由なんてわかっている。
とにかく彼女を落ち着かせるために、とりあえず部屋の中に入れた。
「また茂と喧嘩したのか」
オレは冷蔵庫を開け、芽衣子に何か飲み物を出そうとしたが、あいにくビールと発泡酒しか入っていなかった。
酒のあまり強くない芽衣子に飲ませるのは止めた方がよかろう。
「暑いけど、コーヒーでも淹れるか?」
しかし芽衣子は首を横に振って、
「あとでお金払うからビールちょうだい」
と、イライラした口調で言った。
「いや、金は別にいいんだけど……、荒れてる時に飲むと悪酔いするだろ?
酒は止めとけよ」
「平気、明日は会社休みだし。
久留米くんも休みだよね?
だったら一晩中飲み明かそうよ」
芽衣子はオレに千円札を渡すと、サッサと冷蔵庫から缶ビールを持ち出し、素早くプルタブを開けてビールを喉に流し込んだ。
そんな芽衣子を呆れた顔で見つめつつ、
「なあ、オレから茂に電話して駅まで迎えに来させるからさ。
まだ最終には間に合うし、帰った方がいいぞ」
と、オレは一生懸命芽衣子を宥めた。
なんとか最終電車が行ってしまう前に芽衣子を帰らせないと。
ただでさえ二人きりの状況はあまりなかったのに、一晩中二人で過ごすことになったら自分を抑えられるかわからなかったからだ。