あの時のアレ 〜side久留米〜-5
少し探るように息を潜めていると、今度はドア越しに女のすすり泣く声が聞こえてきて、オレは再び
「ギャアッ」
と叫んで玄関マットの上に尻餅をついた。
もはや半狂乱になったオレはとにかく誰かに電話して助けを求めることにした。
腰が抜けたように床を這いつくばって部屋の中にある携帯を取りに行こうとする。
茂だ、アイツに電話して文句言ってやんねえと気が済まねえ。
茂のヘラヘラ笑う顔を思い出してなんとか恐怖から意識を逸らそうとした。
開け放していた部屋にようやくたどり着いた時、ふと玄関の向こう側から、
「……久留米くん」
と聞き慣れた声が聞こえてきた。
その声を聞いた途端、オレは這いつくばっていた身体をガバッと起こし、急いで玄関まで戻り、ドアを開けた。
見るとそこには、
「……一晩泊めて」
と涙を腕でゴシゴシこすりながら突っ立っている、オレが恋してやまない女――有野芽衣子の姿があった。