あの時のアレ 〜side久留米〜-15
簡単な朝食を作るつもりでも、誰かに食べさせると思えば、あれこれ考え過ぎて段取りが悪くなる。
簡単なサラダや、卵焼き、味噌汁、デザート用の苺のヘタを取ったりしてるだけで、時間がだいぶ過ぎてしまった。
それでもなんとか朝食の用意が出来上がり、味噌汁の匂いや、米が炊き上がる匂いで部屋の空気が変わった頃、ベッドの上の芽衣子がもぞもぞ動き出し始めた。
そして彼女は勢いよくガバッと起き上がり、さらには裸の自分の身体を見て小さく悲鳴をあげていた。
「おう、起きたか」
オレはフライパンを洗いながら、彼女の方を見ないで声だけをかけた。
「あ……、あたし……夕べ……」
チラッと彼女の方を見ると、芽衣子は真っ赤な顔でタオルケットで自分の身体を隠しながらこちらを見ている。
オレはなるべく芽衣子に気まずい思いをさせぬよう、素知らぬ顔で、
「朝飯、作ったんだけど食べるだろ?
オレ、煙草切らしたみたいだから、買いに行ってくるわ」
と、なるべくいつもの調子で話しかけ、そのまま外に出ることにした。
そしてアパートから道路に出た所で、まだたくさん残っている煙草を一本取り出すと、おもむろに火を点けた。