あの時のアレ 〜side久留米〜-13
◇ ◇ ◇
ベランダに出て、煙草に火を点け、少しだけ明るくなってきた空に向かって煙を吐いた。
じっと耳をすませば遠くで電車の走る音が聞こえる。
ああ、もうこんな時間になっていたのか。
ベランダから部屋の中を覗くと、ベッドの中でスヤスヤ眠る芽衣子の顔が見えた。
芽衣子を抱いて、お互い力尽きて一緒にベッドで眠りにつこうとしたものの、やはり隣に彼女が眠っていると思うと落ち着かなくて、ほとんどまともに眠れなかった。
そんなオレの心の内など知らずに芽衣子はすぐにスースーと眠り、その無邪気な寝顔がオレを罪の意識に苛まさせた。
やってはいけないことをしてしまった。
芽衣子を殴る茂を傷つけたくて、彼女をそそのかしてこういう流れに持って行くなんて、汚すぎるな、オレは。
ベランダの手すりに額をくっつけ深いため息を吐く。
いや、汚い真似をしたのがオレだけならまだよかった。
友達の彼女だけど、少なからずこういう願望は持っていたから。
ただ、何の罪もない芽衣子を共犯者にしてしまったのはさすがに心が痛んだ。
多分彼女はこれから先、茂に対して罪の意識を持ちながら付き合っていくのだろう。
茂の方が何度も浮気を繰り返していたけれど、オレと芽衣子が身体の関係を持ってしまったことの方が罪が大きいような気がした。