あの時のアレ 〜side久留米〜-10
茫然と青あざを見つめているオレに、彼女は
「また浮気してたから、そのこと問い詰めたら思いっきり蹴っ飛ばしてきたんだよ!
浮気する方が悪いのに……茂のバカやろう!」
芽衣子はTシャツも着ないまま、冷蔵庫の中のビールを取るためオレに背中を向けた。
よく見りゃ、背中にも点々とあざや擦り傷が残っている。
浮気して、逆ギレして、ここまで手を上げてんのかよ。
許せねえ、あの野郎……。
怒りで次第に身体が震えてきた。
でも、オレがアイツを殴った所できっと芽衣子は茂をかばうだろうし、茂だって反省しないと思う。
それでも、なんとかして茂を傷つけてやりたくなったオレは、芽衣子に向かって、
「なあ、お前は浮気されてばかりで悔しくねえの?」
と、訊ねた。
すると、芽衣子はアルコールで少し据わった目をこちらに向けて、
「めちゃくちゃ悔しいよ!
なんであたしばかりこんな目に合わなきゃいけないのよ!」
と、声を張り上げた。
次から言うのは一つの賭けだ。
酔っ払ってる芽衣子を騙すようで少々心苦しいが、つけいる隙は今しかない。
茂、浮気するほど他の女がいいならオレに芽衣子を譲れよ。
多分お前よりオレの方が、ずっとずっと芽衣子を好きなんだから。
オレは震えた唇をゆっくり開いて、
「なら、お前も浮気しちゃえばいいじゃん」
と、わざと冗談めかした口調で言った。