献花―けんか―-5
やがて精液のしぶきが膣内で飛び散り、おなじくして紗耶香もアクメに溺れていった。
それは断崖から転落していくのとは違って、女をやっていてよかったと思えるほどやさしいアクメだった。
「こんな爺さんなんかのために、どうしてあなたはそこまでしてくれるのです?」
行為のあとに島袋が言う。
「それは島袋さんの記憶の中に、私という人妻がいるからです」
「うむ……」
「無理して思い出そうとしなくていいですよ」
「野村さんはほんとうにそれでいいのですか?」
「……はい」
寂しい気持ちを隠して紗耶香は微笑んだ。ほんとうは早く思い出してもらいたかった。
「かつての私は、あなたに乱暴なことをしていませんでしたか?」
おぼろげな記憶を追いながら島袋は紗耶香に尋ねた。
とんでもない、と表情だけで意思を示す紗耶香。
「主人を裏切ったのは私のほうです。女は平気で嘘をつけますから……」
「しかし体は嘘をつけない、と?」
「ぜんぶあなたから教わったことです……」
紗耶香は島袋の唇をむさぼった。これ見よがしに乳房を押しつけた。そして不細工に貝割れする人妻のそれを、むくんだ陰茎と交わらせた。
世間は不倫で溢れている、と島袋慶次が過去に言ったことがある。自分にはまったく関わりのない話だと警戒心を解いていた紗耶香だったからこそ、ふとしたきっかけで泥沼に足をすくわれてしまったのだ。
心の浮気ではなく、体の浮気。そこだけははっきりしている。
ふたたび性器がつながって、悶々とした息が湯気と混じり合う。そして肌をたたきつけるシャワーの音に紛れるように、島袋がふかふかと声を漏らした。
「ああ、あなたは、もしや……、そうか」
突き上げてくるものがはげしさを増して紗耶香を惑わせる。
「そうです、私です……ああん、すてき……」
「なんとなく、ああ、そうだよ、思い出せた……うっ」
いびつにまぐわう肉体の隅々にまで神経をめぐらせながら、島袋は脳裏に浮かんだその名前を浴室にひびかせて、紗耶香もまたその声をしたたかに受け止めた。
プロムナードを抜けた先に献花台があり、生まれたままの姿をそこに差し出す人妻。
装飾品のようにタブーを身にまとったまま、偽ることばかりが上手になっていく人妻。
それは野村紗耶香にかぎらず、どこの家庭にでも潜んでいる微妙な心の変化からはじまるのである。
―おわり―