献花―けんか―-2
今月はいつもより遅れている──と思ったのは、日用品を買うためにドラッグストアに行ったときである。
心当たりがあるだけに、紗耶香の動揺はそのまま挙動にあらわれていた。
店内のおなじところをぐるぐるまわって、それを買うかどうかを決められないでいる。
メーカーによって値段が違うだけで、おそらく使用法はどれもおなじだろう。
遅かれ早かれ、いずれ明らかにしなくてはいけないことだと思う。
よし──。
レジ待ちの列が途切れたところで、できるだけ地味なパッケージを選んで買い物かごごとカウンターに置いた。
夫に内緒で妊娠検査薬を買うという行為が、不貞をはたらいているように紗耶香には思えた。
陽性、陰性、どちらが出ても後悔しないつもりでいる。
とりあえず家のトイレにこもって使い方を反芻した。
ここにおしっこをかけるだけなんだもんね──。
結局この日は踏ん切りがつかず、もう少し待てば月経がくるかもしれないと思ってみることにした。
しかし翌日も、その次の日も、そういう気配はおとずれなかった。
ひょっとしたら相手は島袋慶次ではなく、夫という可能性もある。
気持ちが固まると紗耶香の行動は早かった。
結果は陰性だった。
よかった……のかな──。
ほっとした直後に、とてつもない喪失感をおぼえた。そして島袋慶次の体が恋しい。
あの息巻くようなレイプとセックスとオナニーの瞬間を、もう一度だけ取り戻せないものだろうか。
「奥さんと二人で時間を過ごしたという思い出が欲しいのだよ」
と島袋がいつか言った台詞がある。思い出だなんて言わず、今すぐ辱められたい。
紗耶香は人妻というカテゴリーから抜け出して、積極的に性を求めはじめていた。
それから幾日もしないうちに、不規則ながらも生理がきて、さらに時間が過ぎていった。
夫婦の会話の中に島袋慶次の名前が出ることもなくなり、紗耶香も心機一転、家から出て働くことにした。
「大学にいた頃に資格を取ってあったから、そろそろどうかと思って」
「紗耶香がやりたいようにすればいいよ。俺は応援する」
「ありがとう、健ちゃん」
こうと決めたらなかなか意志を曲げない紗耶香は、さっそく自分の条件に合った求人広告を選りすぐり、満面の自信で面接に臨んだ。
「それじゃあ、来週から来てもらおうかしら」
相手の女性からそんなふうに言われたのも、こんな自分の人間性を評価してくれた結果だろうと思う。
ここが私の新天地──。
紗耶香はすでに先の未来を見つめていた。