授受―じゅじゅ―-8
二度目の射精は紗耶香の口の中で迎えた。生臭いミルクが喉を通って胃で消化されていく。体に悪そうな味なのに飲まずにはいられない。
自分は愚かな男だ──と島袋は思う。
さまざまな臓器が衰えていく中で、生殖器だけが活発に機能しているというのは、女に卑しい人間である証拠なのだろう。
医者に見放されても文句は言えないな──。
ふとしてベッドに横たわる紗耶香を眺めると、なぜだか胸が締めつけられた。島袋がずっと思い描いていた通りの人妻が、悶々とした表情でセックスを待ちわびているのだ。
「あなたはきっと、長生きする……」
と島袋がつぶやく。
起き上がろうとする紗耶香を押し倒し、はにかむ股間をこじ開けて陰茎を打ち込んだ。
「ああうん!」
「奥さん、奥さん、奥さん!」
「気持ちいい、ああ、く!」
あっという間にテンションが上り詰める。点滴の管に血が逆流しても島袋はペニスを振りつづけた。
「またイク、イクう、っクう、う、う……」
背中を駆け上がるエロティックな痺れに、紗耶香はとうとう気を失った。それでも膣だけは痙攣していた。
自分の責任なのだと島袋は考えたが、盛り上がった気持ちを抑えることができずに、紗耶香の子宮頸部に射精を果たしたのだった。
それから数時間が費やされた──。
夫の健吾は夜まで帰らない。メールでそう知らせてきたのだ。
紗耶香は自宅のリビングで紅茶を飲みながらくつろいでいた。
島袋慶次の病室を後にし、そこからタクシーに乗って帰ってきたのだが、誰もいないひっそりとした家の中にはいつになく寂しい空気が漂っていた。
性交の痕跡を消すために下着を処分して、シャワーを浴びたあとに家事に取りかかった。
けれどもどうにも気分が乗らず、明日にしようということでティータイムにしたのだ。
「バイブは使ってくれましたか?」
病院で島袋から言われた台詞が脳裏をよぎる。
紗耶香はふらふらと立ち上がり、淫らな衝動に突き動かされるまま『開かずの間』を開けた。
ごくりと唾を飲み込んで玩具を手にすると、スイッチを入れて確かめてみる。
反応がない──すでに電池が切れていた。
確か買い置きはなかったはずだ。紗耶香はどうにかしたくて家中を歩きまわり、テレビのリモコンや懐中電灯から乾電池を取り出して集めた。
こんなことに必死になっている自分がひどく惨めに思えてくる。それでも心は鈍らない。
動いてくれることを願って、ふたたび玩具のスイッチを入れる。
ウイイイイン──清潔な手の中でバイブレーターが産声をあげた。