授受―じゅじゅ―-5
やがて二つの乳輪が露わになると、島袋は赤面した。そこに人妻の『イズム』を見たからだ。
ピンク色の乳首が物欲しそうに上を向いている。
今日までに何人の男がこの乳房に出会えたのか、島袋にはわからない。けれども嫉妬せずにはいられなかった。
島袋は紗耶香の乳首に吸い付き、無邪気に乳房を揉んだ。
「はうっ」
香辛料のようでいて甘くただれる刺激が紗耶香をおそう。
「私……声……でちゃう……、あん」
紗耶香は思わずスカートを掴んだ。
「下も脱いだらどうですか?」
「でも……」
「胸を触られるだけで満足できますか?」
「知りません……、あっあん」
痛いくらいに快感を訴えつづける紗耶香の乳首。そこへ罪をなすりつけるように島袋が唾液を塗りたくってくる。
「今日で……終わりに……、あん、終わらせて……」
「いいですとも」
あきらめた人妻がストッキングを下げると、そこに重ねるようにしてショーツも脱いでしまう。さらに愛液が後を追って糸を引いた。
「最後の思い出に、奥さんのオナニーを見せて欲しい」
「……、……無理です」
「なぜですか?」
「なぜって……」
女がその行為を求めるとき、そこにはかならず卑しくも醜いほんとうの自分が浮かび上がるもの。
その秘め事は墓の中にまで持っていかなければならないと思っている。
「無理です……」
紗耶香はもう一度おなじことを言った。
「そうですか、わかりました……」
島袋は、煙草の煙を吐き出すような溜め息をついた。あるいは魂が口から抜けていくようでもある。
「こんな私を見舞ってくれて、どうもありがとう……」
まるで人が変わったような島袋の台詞に、紗耶香は説明のつかない胸騒ぎをおぼえた。
そして何気なく簡易テーブルの上の書類に視線を向けると、そこには聞いたこともない病名が記されていた。心臓や肝臓といった文字がリアルでならない。
紗耶香の視線がふたたびベッドへ戻ったとき、彼の姿は哀れな老人のものへと変わり果てていた。
点滴の刺さった腕がナースコールのボタンを探っている。
「待ってください」
紗耶香は思わず口走っていた。意気消沈した島袋がこちらをうかがっている。
その視線を浴びたままで、紗耶香は自らの股間へ手を持っていった。
ひどく濡れているのが自分でもわかる。この疼きを鎮めないことには、未練が残るような気がした。