授受―じゅじゅ―-4
「だめ、ここは病院ですよ……」
「だからなおさら燃える。奥さんだって『その気』になっているんでしょう?」
「あなたっていう人は……」
どうしようもない人間だと紗耶香は言いそうになった。しかしそれを言ったところで状況が変わるわけでもないのだ。
紗耶香がベッドに腰掛けると、二人分の体重を乗せたベッドがかるく軋んだ。
無理矢理に寄り添う恰好にさせられて、さらに胸と陰部をしつこく揉みしだいてくる。
「まるで果物だ、ああ、すごい、実がこんなに詰まって、指を押し返してくる……」
島袋の目当ては人妻の体なのだ。それは紗耶香にもわかる。
しかしこうやって点滴に繋がれている彼のことを見ていると、ただ欲に目が眩んだだけの一人の男だとは思えなくなってくる。
ほんとうはもっと弱くて、寂しい人物なのかもしれない。
「奥さんは私の夢だ、私の人生だ、手放したくない……」
一途に肉体を求めてくる。それは乳房だったり、女性器だったり、人妻の身分からしてみれば決して気持ちのいいことではない。
だけど、と紗耶香は思う。
「メガネをかけた人妻も、なかなか良いもんですねえ」
毛深い手の甲で頬を撫でられたあと、今度は両手のひらで顔を包まれてしまう。
心なしか、島袋のその手には血液のぬくもりが足りないような気がした。
そのことに意識を盗まれていた紗耶香は、気づいた時には唇を奪われていた。
はっとしたのは一瞬で、紗耶香はとくべつ抵抗するでもなく、あとはもう大人しく流れに身をまかせていた。
瞼を閉じて、粘着質な舌を受け入れる。歯磨き粉のミントの味もすっかり消えていたが、そんなことは問題じゃない。
犯されていくというプロセスに心をひらいてしまう自分こそが、偽りのない自分の姿なのかもしれない。
紗耶香の戸惑いはそのまま島袋の唇にまでつたわった。
「奥さんの迷いを取り払ってあげますよ」
島袋は点滴の管を気にしつつ、紗耶香のセーターを丁寧にまくり上げる。
「恥ずかしい……」
耳まで赤く染める紗耶香。気持ちだけが片付かないまま、夫以外の男にふたたび肌を捧げようとしている。
こんな関係は普通じゃない……。普通じゃないからこそ、自分の体は濡れているんだ。
「見せてごらん?」
島袋がやさしく促してくる。紗耶香の手先の震えは恐怖からくるものではなく、性的な興奮を示すものだった。
ブラジャーを脱ぐ瞬間まで手の震えはおさまらなかった。