授受―じゅじゅ―-3
オーガズムを迎えてしまえば少しは楽になれるのにと、紗耶香はふしだらなことを考えていた。
そしてもう間もなくというとき、紗耶香の体から体温計が抜き取られた。
あと少しだったのに──。
なんとも歯痒い喪失感が紗耶香の下半身におとずれる。
「平熱ですね」
愛液でびしょびしょに汚れた体温計を見ながら島袋が言う。
「しかしまあ、これだけ濡れやすい体をしているとなると、奥さんは病気かもしれませんな」
いい加減なことを言う島袋の舌をちょん切ってやりたいと紗耶香は思った。初老といっても目の色はまだまだ黒い。老後もこんなふうにして若い人妻に手を出すつもりなのだろうか。
紗耶香は理解に苦しむ顔をした。
「遅くなりました」
ようやく健吾が戻ってくると、紗耶香の表情は救助される遭難者のものになっていた。
しかし、
「すみませんけど、さっき会社から電話があって、これから出社して欲しいということでした」
残念な気持ちを滲ませて健吾が頭を下げる。
「今日は土曜日でしょ?」
紗耶香は言うが、
「君がいないと会社が困るだろう。早く行ってあげなさい」
島袋が健吾を追い返そうとする。
そうしているあいだにも、健吾の目の届かないところでは、島袋の指が紗耶香の膣内であやしく動きまわっていた。
息が詰まるほどの愛撫を浴びている上に、夫に見つかってしまうかもしれないという臨場感が重なり、紗耶香の気分は白昼夢のどこかを浮遊していた。
「よろしく頼むな?紗耶香」
「……うん」
妻の変化に気づく余裕もないのだろう。
退院したあかつきには我が家でお酒でも飲みましょうということを言って、健吾は自治会長のそばに愛妻を置いたまま会社へ向かった。
紗耶香は、理性を繋ぎとめていたものがぷつりと切れる音を聞いた。
それはつまるところ、島袋による凌辱のはじまりの合図だったのかもしれない。
「愛染女房というやつですね」
「言っている意味がわかりません」
「あなたはご主人に愛されている」
「だったら、今日はもう帰らせてください」
きっぱりと表情をととのえる紗耶香だったが、陰部の口に他人の指を受け入れるその様子は、およそ人妻のたたずまいとは思えない。痩せ我慢をする手がベッドの手すりを掴んでいる。
腕時計やハンドクリームのコマーシャルに出演している手のようだなと、島袋は紗耶香の手指にしばし夢を見た。
「ああっ……」
紗耶香はあえぎながらバランスを崩して、ベッドに両手をついた。急接近する二人のあいだで香水の匂いが動いている。
島袋は目の前にある胸のふくらみを抱きしめた。